第17話 村の一員
「おい! ユート! 何ぼさっとしてやがるんだ!」
「え? あ、ああ」
ロドニーに近くで怒鳴られ、ようやく今の状況が少しずつ認識できるようになってきた。
武器を持った盗賊が攻めてきていて、戦わなければ俺たちは殺されるんだ。
「お前、よほど平和なところに住んでたんだろうな。羨ましいよ」
「……」
「だから、盗賊に会ったこともなければ殺したこともないんだろ?」
「あ、ああ」
「だがな。そんな奴はここでは男とは認められねぇ。女子供を守れない奴は男じゃねぇ。見ろ。あそこでクラークが腹から血を流してるだろ」
「う……」
クラークというのはこの村に住んでいる十五歳の少年だ。
「あいつは男だ。村を守るために戦って、重傷を負ったんだ。だがな。お前が弓で最初から盗賊を殺してりゃ死ななくてすんだかもしれねぇんだぞ」
返す言葉もない。盗賊は俺たちを殺すつもりで襲撃してきたのだ。
チートだ村人最強だとか言っていたくせに!
俺は何も分かっていなかった。
チートを使ってちやほやされて、ゲームのように舐めていた結果同じ村に住んでいる少年にあんな怪我をさせたのだ。
「だからな。ユート」
ロドニーは自分の手に持った斧を手渡してきた。
「やれ。あそこの盗賊はまだ生きている。お前がトドメを刺すんだ」
「う……」
俺が……殺すのか? 人間を?
「言っておくが、お前が殺さねぇなら俺が殺す。俺が殺さなくてもトーマスさんが殺す。盗賊なんざ生かしておく価値はない。あんな連中に食わせるぐらいならブレンダやジェシカやアニーに、それに村の仲間に少しでも多く食わせるのが当たり前だ」
「……そう、だよな」
俺は言われて斧を手に取ると、地面に倒れて血を流す盗賊の前に立った。
「ほら! 迷うな!」
「やれ! 殺せ!」
「殺すんだ! ユート!」
いつの間にか周りに集まった男たちが俺をそう
「あ……う……」
盗賊の男はうめき声をあげた。
俺は……これを振り下ろしていいのか?
「やーれ! やーれ!」
「男だろ! さっさとやれ!」
そうだ。俺は!
俺は目を瞑って思い切り斧を振り下ろした。ぐしゃり、といやな感覚が襲ってくる。
「よくやったぞ! ユート!」
「これでお前も男だ!」
ロドニーに、村人たちに褒めそやされる。
殺人を犯したはずなのに、これが正しいことのような気がしてくる。
これで、良かったのだろうか?
いや、きっとこれで良かったのだろう。
そうだ。これで良かったんだ!
「みんなすまない。次は、次からは俺もちゃんと戦う。申し訳ない!」
「男なら誰もが通る道だ。これでお前も村の男だ!」
ロドニーはそう言うと俺の肩を乱暴に抱いてきた。
「ユート。次は頼むぜ!」
そうだ。これでいい。これでいいんだ。ロドニーだって、村のみんなだってこう言っているじゃないか。
俺だって村に貢献するんだ。そのためには!
「そうだ! 急いで傷薬を作ってくる。ちょっと待っててくれ」
そう宣言して俺は自宅へと戻ったのだった。
◆◇◆
急いで傷薬を調合した俺は、それを木のボウルに入れて戻ってきた。それを見たロドニーが不審そうな表情で尋ねてくる。
「お、おい! お前、調合なんてできたのか?」
「ああ。難しいのはできないが、簡単なやつだけならできる」
「はぁ。お前、本当に何でもできるんだな」
「まあな」
ロドニーとのやり取りもそこそこに、倒れているクラークのそばへと駆け寄った。そこではクラークの両親が寄り添って必死に声を掛けている。
「どいてくれ。傷薬を持ってきた」
「え?」
「俺がさっき薬草を調合した。これでも血止めくらいにはなるはずだ」
「ユート、さん?」
「ほら! 早く!」
「あ、ああ。ありがとう!」
困惑するクラークの母親を尻目に父親のほうがテキパキと処置をしていく。
傷口を井戸水で洗うとそこに傷薬を塗りこんでいく。
クラークの傷は生きていることが不思議なくらいの深い刺し傷がある。これが剣で刺されるということなのだろう。
だがその傷口に傷薬を塗りこむと、まるで魔法のようにゆっくりと流れ出る血が止まっていく。
すごい。きれいに傷が治るというわけではないようだが、それでも出血が止まれば命は助かるかもしれない。
やがて持ってきた傷薬を使い切ると、クラークの腹から流れ出ていた血は全て止まったのだった。
「ユート! ありがとう!」
「ああ、何とお礼を言ったらいいか!」
クラークの両親が涙ながらにお礼を言ってきてくれた。
「いや。本当は俺が最初から戦えていればクラークはこんな怪我を負わずに済んだはずだ。申し訳ない。だから、これくらいやるのは当然なんだ」
「それでもだ。ユート。ありがとう!」
こうして俺はクラークの父親と固く握手を交わした。
「ユート! お前、すげぇじゃねぇか! 本当に傷薬が作れたんだな!」
「ロドニー。お前、信用してなかったのか?」
「いやいや。だが、薬なんて薬師様じゃねぇと作れねぇもんだろ? お前、本当にすげぇな」
「いや、俺は……」
「ユート。そんなことないぞ。お前は狩りもできて薬も作れるんだ。もう、この村にはお前はなくてはならない男だ!」
「ユート。次こそは頼むぞ!」
周りの村人たちも口々にそう言って、俺を認めてくれている。
はっきり言ってブラック企業で社畜をしていたときには考えられないことで、なんとも心地いい。
こうして俺は、ようやく真の意味での村の一員となれたような気がしたのだった。
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