第20話 採集日和

「ユートさん。よろしくお願いします」

「うん。よろしくね。ジェシカちゃん」

「おい、ユート。不埒なことは許さないからな! ジェシカにはかすり傷ひとつ負わせるなよ?」

「わかってるからそんなに睨むなよ」

「お父さん!」

「うっ……」


 ジェシカちゃんに言われてロドニーはしゅんとしてしまった。


「ユート! あたしね! くだものがいい!」

「わかったよ。見かけたら採ってくるよ」

「うんっ」


 アニーちゃんは甘い果物が食べたいらしい。今の時期ならブラックベリーやラズベリーが実っていることもあるが、虫に食われていることも多いので期待に沿えるかは微妙なところだ。


「ユートさん。娘をお願いしますね」

「はい」


 最後にロドニー家の権力者であるブレンダさんにそう言われて俺たちは森へと向かうのだった。


◆◇◆


「ユートさん。ありましたよ」

「お、本当だ。それは食べられるね」

「はい」


 ジェシカちゃんは嬉しそうにその野草を摘み取った。ジェシカちゃんが手にしているのはサルデリアオオバコという野草だ。生でも茹でても美味しいうえどこにでも生えているので、ガスター開拓村のみんなはかなりお世話になっている。


 もちろん摘んだあとに残るドロップもインベントリに入れて回収しておく。


 ちなみにこのインベントリの中身はかなりすごいことになっていて、結構前の肉が入っていたりする。


 とはいえ、インベントリに入っているものが腐るということはないので何の問題もない。それどころかインベントリの中でまとめると区別がつかなくなるので取り出したものが古いのか新しいのかも分からなくなる。


 よくわからないが、俺はこれをゲームの機能がそのまま使えているのだと納得している。


 だって、真面目に色々考えたところで俺の頭ではどうしてこうなるのかなんて分かるはずがない。であれば、そういうものだと納得して使ったほうが遥かに良いと思う。


「じゃあ、次はあそこの薬草を採っていこう」

「はい!」


 ジェシカちゃんは終始ニコニコだ。一緒に採集できるのがよほど嬉しいらしい。


 いや、まあ俺も嬉しいのかと聞かれたら嬉しい。


 だって、日本では絶対に会えないであろう金髪で緑の瞳の白人の女の子がこうして好意を向けてくれているのだ。これが嫌な男なんているわけがない。


 しかもジェシカちゃんは最初に出会ったころから良くしてくれていたのだ。だから他の女の子たちと違って俺の稼ぐであろう金だけが目当てなのではないと思う。


 そういった意味でも貴重な存在ではあるのだが、そもそも俺は二十代後半なのだ。


 ジェシカちゃんから見れば確実におっさんだろうと思う。日本であれば、ブラック企業の社畜リーマンが女子中学生と一緒にいるという状況なのだ。そう考えると何やら犯罪の臭いすら漂ってくる。


 もちろん、そんなことはないのだが……。


 それにいずれ日本に帰るということを考えればやはり手を出すということはするべきじゃない。


 うん。そうだよな。


 ここはひとつ。大人として、まだ子供のジェシカちゃんに楽しい思い出を作ってもらうことを第一に考えよう。


「ユートさんっ。次はどっちに行きますか?」

「え? ああ、そうだね。それじゃあ今度はあそこに行こうか。あの辺りにまた薬草と毒消し草があるよ。お、あとお肉があの木の上にいるね。ちょっと狩っちゃおう」


 持ってきていた弓を構えると、モリウズラを一矢できちんと仕留める。


「うわぁ、すごいです! ユートさん、本当に職業村人なんですか? まるで狩人みたいです」

「いやいや、村人だよ。狩人の職業の人を知っているの?」

「ユートさんが来る一年くらい前、村に立ち寄ってくれたことがあったんです」

「そんな人がいたんだ」

「はい。それで村のみんなでがんばって歓迎したら、一緒に狩りへ連れていってくれたんです」

「へえ。結局その人はどうなったの?」

「結局誰も選ばずに他の村に行っちゃいました」

「選ぶ?」

「はい。狩人の人がいてくれたら村が発展するからって村長様の命令で、村のお姉さんたちががんばって引き留めようとしていたんです」


 なるほど。そんなことがあったのか。


「私はまだ小さかったから参加しなかったんですけど、でもすごく仲良くしていたのに捨てられちゃったお姉さんもいて……」


 う……つまりヤリ捨てたのか。


「そっか。ひどい奴だったんだね」

「……はい」


 そう言って上目遣いに俺を見てきたジェシカちゃんの瞳にはいつもと比べて力がなく、何やら怯えのようなものが含まれている。


 その表情を見ていると、なんだか良心が痛む。


 そうだよな。俺も大人として、ジェシカちゃんに取り返しのつかない心の傷を負わせないようにしなくちゃな。


 そのためには、このままずるずるとやっていて良い……わけないよな。


 そんなことを考えつつも仕留めたモリウズラをさっと回収し、それから薬草と毒消し草も採集する。


「さあ、次に行こうか」

「はいっ」


 俺たちは森の奥へ奥へと歩きだしたのだった。


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 本日はもう一話更新する予定ですが、明日からは執筆ペースの問題から原則一日一話、余裕があった場合のみ二話更新とさせていただきます。


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