第35話 危機一髪

 しばらく歩いていると少し開けた場所に到着した。そこには火がかれており、いくつかテントのようなものが設置されている。


 ただ簡易的なものばかりなので、彼らがここにずっと住んでいたというわけではなさそうだ。


 俺は気付かれないように茂みに身をひそめ、様子をうかがう。


「おい。さっさとばらしちまえよ。とりあえず腹ごしらえできればいいからよ。残りはあのちんけな開拓村から奪えばいいさ」

「ボス、女はいますかね?」

「そりゃあ、いるだろうよ。ヤリ放題だぜ」

「ヒュー」

「俺も溜まってるからよ。派手にやるぜぇ」

「ですがあそこの村って、たしか前に盗賊を撃退したって噂になってませんでしたっけ?」

「ああ。でも燃やしてやれば余裕だろ」

「そっすね。付け火は俺らの十八番おはこっすもんね」

「そういうこった」


 なんとも腹立たしい会話をしているが、これでこいつらが盗賊であることは間違いない。


 この時間から食事をして出発ということは、おそらく日没と同時くらいに村を襲うつもりなのだろう。


 どうにかここで、と思わないでもない。だがやはり早く村に戻り、報告したほうがいいだろう。


 そう考えてこっそり立ち去ろうと思ったのだが、次から次へと奴らの仲間らしい男たちが戻ってきてしまい立ち去るタイミングを完全に失ってしまった。


「ボス! 肉の調達お疲れ様です!」

「おうよ! おめぇらも腹ごしらえしろよ!」

「うっす! ありがとうございます!」

「あの勇者どものせいで俺ら、散々っすからね」


 部下のうちの一人がそう言うと、ボスの男は不機嫌そうに顔をしかめる。


「おい! その話をすんじゃねぇ!」

「ひっ、す、すいやせん」


 ボスの男に怒鳴りつけられた男は慌てて頭を下げる。


「ちっ。まあいい。さっさと食ったら仕事だ」

「へ、へい」


 そうして適当に切り分けられた肉を次々と焼いては盗賊たちが口に放り込んでいく。


 この盗賊団の人数は大体二十人くらいだろうか?


 食欲が満たされたらしい連中から順に一人、また一人と武器を片手に村のほうへと歩いていく。どうやらこのまま村を襲撃しにいくつもりのようだ。


 それから大半の男たちが立ち去ったところで、三人ほどの男が大きな荷物を担いでやってきた。


 何やら縄でぐるぐる巻きになっているが……あれは人か?


「ボス!」

「おう。どうだった?」

「へい。村の女、攫ってきましたぜ!」


 そう言うと、担いでいた人らしきものを地面に降ろした。


 ……村の女を攫ってきた?


 まさか!


 俺はじっと横たえられた三人の女の子の姿を確認した。


 するとなんと! その中の一人はジェシカちゃんではないか!


 猿ぐつわを噛まされているが、あれは間違いない。


 それに他の娘たちも!


 たしかエラちゃんとドリーちゃんという名前の村の娘じゃないか!


 村は柵で囲われていて、門からしか出入りできないはずだ。


 それなのにどうして!?


「おう。よくやった。ちょっと青いところはあるが、肉付きもいいし中々の上玉じゃねぇか。クソ田舎のくせに結構いいもん食ってんだろうな」


 ボスの男は下卑た声でそんなことを呟いた。


「へへへ。それにこの年齢なら初物だろう。よくやったぞ。おい、俺は試してから行くからな。お前ら先に行ってろ!」

「えっ?」

「ボス、そりゃねぇっすよ」

「ああん? 文句あんのか?」


 口々に不平を漏らす子分たちをボスの男は一喝した。


「い、いえ。ねぇっす」

「大丈夫だ。後でお前らにも回してやっから」

「へ、へい! 約束っすよ!」

「分かったらさっさと行け」


 ボスの男がそう言うと周りの男たちは渋々といった感じで村のほうへと歩いていく。


 そして彼らが見えなくなったところでボスの男は周囲を警戒するのをやめ、ジェシカちゃんに手を伸ばした。


「んー! んー!」

「くへへ。さあ、御開帳だ」


 そう下卑た声で呟いた瞬間を見計らい、俺は矢を放った。


 SCO印の照準システムで狙いを定めた矢は寸分たがわずボスの男の後頭部に突き刺さる。


「あ、が……」


 そううめき声を上げたボスの男は、そのままジェシカちゃんへのしかかるようにして崩れ落ちる。


 俺は大急ぎでジェシカちゃんたちのもとへと駆け寄ると、ボスの男をジェシカちゃんの上から引きがした。


「ぐ、が……」


 ボスの男がうめき声を上げた。


 それを聞いた俺は反射的にボスの男が腰に佩いていた剣を奪い、気付けばその首に突き立てていた。


 驚いたことに、ためらいは全くなかった。


 ボスの男の首からはヒューという空気の漏れる音が聞こえ、続いて血がドクドクと流れ出る。


「んーっ!」

「ジェシカちゃん、今助けるから」


 急いで猿ぐつわを外してあげ、ボスの血に濡れた剣でジェシカちゃんを拘束している縄を切って解放していく。


 続いて残る女の子たちも解放し、猿ぐつわを外してやった。


「ひぃぃぃぃ」


 するとドリーちゃんが恐怖からか、大きな叫び声を上げてしまった。俺は慌ててその口を抑える。


「んんっ! んー!」


 パニックを起こしているらしいドリーちゃんは大暴れするが、ここで見つかってしまうわけにはいかない。


「ジェシカちゃん、あと君はエラちゃんだよね? 見つからないように逃げるよ。立てる?」


 すると二人はコクリと頷いた。


「ドリーちゃん、だよね? 落ち着いて! 大丈夫だから! 村に帰れるから」

「んー!」


 しかしドリーちゃんは落ち着いてくれない。


「仕方ない」


 俺は持ってきていた飲み水をドリーちゃんの頭に掛けた。


「んんっ!?」


 それでようやく少し落ち着いたのか、ドリーちゃんは暴れるのをやめてくれた。


「ドリーちゃん、今の状況、分かる?」


 返事をしないが、ドリーちゃんは暴れるようなこともない。


「ドリーちゃん、逃げるけど声を出さないで。音もなるべく立てないように」


 するとドリーちゃんがコクコクと頷いたので、俺はドリーちゃんの口を塞いでいた手を離した。


「あ……ご、ごめんなさい」


 ドリーちゃんは殊勝に謝ってくるが、今はそれどころではない。


「いいよ。それより、早くこの場を離れよう。ついてきて」

「はい」


 俺は三人を連れ、盗賊たちと鉢合わせしないように大周りして村を目指すのだった。


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 次回更新は 2022/07/08 (金) 12:00 を予定しております。


【お知らせとお願い】

 また、本作の書籍版が 2022/07/15 (金) 発売となります。


 タイトルも「勇者召喚されたけど俺だけ村人だった件 でも実は村人こそが最強だったので生産職を極めてカレーの伝道師を目指します」と改められており、WEB版のコンセプトはそのままに、より読みやすく、そしてダークエルフの新ヒロインを追加して最強を目指しながらも実は趣味だったスパイスカレー作りを目指すという内容にパワーアップしております。


 本作を楽しんでいただけた読者の皆様にはきっと面白かったと言っていただける内容になっていると自負しておりますので、お手に取っていただけますと幸いです。


 なお、本作は書籍版の内容をもとにWEB版へと再構成するという手法で執筆されています。


 そのため書籍版一巻までの内容については売れ行きにかかわらず、WEB版の内容に合致するように再構成し本サイトに投稿いたします。


 その続きについても構想はございますが、執筆できるかは出版社様の判断となります。何卒ご承知おきくださいますようよろしくお願いいたします。


 なお出版社様の続刊の判断を後押しするのは、書籍版をご購入いただくことが一番です。


 ですが、それ以外にも


・ご友人におススメいただく

・図書館などに購入リクエストを送る

・編集部宛てにファンレターを送る

・Twitter で出版社様の公式に届く形で感想をつぶやく


など様々な方法がございます。


 大変恐縮ではございますが、読者の皆様におかれましては可能な範囲内で盛り上げていただけますと大変ありがたく存じます。


 なお、執筆の継続や続刊に関するご意見などは作品の感想ではなく、近況ノートの「今後の更新について(勇者召喚されたけど俺だけ村人だった件)」という記事にお寄せいただけますと幸いです。

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