第36話 村へ!

「ふう。そろそろ大丈夫かな。みんな、大丈夫?」

「ユートさん……」

「はい」

「怖かったです」


 まっすぐ村に向かわず、ぐるりと反対側へと回るルートを取っているため俺たちはいまだだに森の中だ。


 というのも、残念ながらSCO印のミニマップは盗賊を表示してはくれないからだ。


 SCOで他のプレイヤーをミニマップに表示するには視認するか、斥候の職業が必要だったからだ。しかも斥候の職業を持っていないとミニマップの範囲外に出た他プレイヤーが自動的に再表示されることはない。


 だからできるだけ安全に村へ帰れるよう、こうして相当な回り道をしているわけだ。その甲斐かいもあってか、今のところは盗賊に見つからずに済んでいる。


「みんなさ。どうして盗賊に捕まってたの? 村から出てないんだよね?」

「……はい。ただ、突然あの盗賊たちが現れて……」

「突然?」

「そうなんです。私たちは村はずれのほうの井戸に水をみに来てたんですけど……」


 そう言ってジェシカちゃんは体を震わせた。きっと襲われたときの恐怖を思い出しているのだろう。


 するとエラちゃんがその後のことを説明してくれた。


「あのっ! どうやらあいつら、村の柵を壊したみたいなんです!」

「柵を?」

「はい。私たち、その柵に空いた穴から連れ出されたんです」

「……そっか。じゃあ、早く村に戻ってみんなに知らせないとね。ちょっと急ごうか」

「はい!」


 俺たちは急ぎ足で村へと戻るのだった。


◆◇◆


 村の外周を時計回りに迂回うかいし、正門が見える場所までやってきた。もう日はすでに傾きつつある。


 だがさすがに時間を掛けすぎてしまったようで、残念ながら盗賊たちのほうが先に到着してしまっていた。


 正門から少し離れた場所に十人ほどの盗賊たちが陣取っているが、幸いなことにまだ村の中へは侵入していない。


 どうやら正面からの突破を考えているようで、門を堅く閉ざして守ろうとしている村のみんなとにらみ合いを続けているようだ。


「とっとと門を開けろや! 俺たちが用心棒になってこの村の警備をしてやるって言ってんだ!」

「ふざけるな! お前らみたいな無法者を受け入れるわけがないだろうが!」


 どうやら盗賊と村長が口論しているようで、お互いの怒鳴り声が聞こえてくる。


「知らねぇぞ? 俺らが守ってねぇときに盗賊団が来たらどうすんだ?」


 ええと、つまり自分たちを村に受け入れて用心棒として雇えと要求しておきながら、雇わなければ盗賊として略奪をすると脅しているということだな?


 ……控えめに言ってもクズだ。そんな要求をしたって村長も村のみんなも受け入れるはずがない。


 それなのにどうしてこんなところで延々と押し問答をしているのだろうか?


 と、そこまで考えて俺はキャンプで盗賊たちが言っていたことを思い出した。


 あいつら、付け火が得意とか言っていなかったか?


 つまりわざわざ正面から堂々とやってきたのは交渉するためじゃなく、こっちに注意を集めて村に火を放つためじゃないのか?


 そもそもあの盗賊のキャンプには二十人ほどがいたのだ。どう考えても人数が足りない。


 早く村に戻って別働隊がいることを報せなければ!


 だが、今俺はジェシカちゃんたちを連れているのだ。


 俺一人であの盗賊をすべて倒すのは不可能だし、先制攻撃したら三人が危険に晒されてしまう。


 一体どうすれば……!


 俺が思案していると、ドリーちゃんがとんでもないことを言ってきた。


「ユートさん、あの盗賊たち、やっつけちゃってくださいよ。ユートさんならできますよね?」


 ドリーちゃんは期待した目で俺を見てくる。エラちゃんも、それにジェシカちゃんまでもが同じように俺を見てくる。


 だが、いくらなんでもそれは無謀だ。


「……いや、さすがに無理だよ。一人か二人ならどうにかできるかもしれないけど、ここから攻撃したら間違いなく見つかる。そうしたらみんなが襲われちゃうよ」

「でもっ!」

「しっ! 静かに!」

「っ!」


 ドリーちゃんは慌てて自分の口を両手で塞いだ。俺たちは慌てて頭を下げ、周囲の様子を窺う。


 ……どうやら誰にも気付かれてはいないようだ。


「ともかく、今はなんとかして村の中に入らないと……あ、そういえば三人は柵に空いた穴から連れ出されたんだよね? どのあたりにあったかわかる?」

「えっと、こことは多分反対側で……」


 ジェシカちゃんが申し訳なさそうにそう答える。


「そっか。そういうことなら、そこまで移動するしかないね。それに盗賊たちはその場所を知ってるんだから、そこから別働隊が入り込んでいてもおかしくないよね。だから急ごう」


 すると三人は表情を強張らせてしまった。


 ああ、しまった。これは伝えるべきじゃなかった。


「ほら、それにもしかしたら他にも柵が壊れている場所があるかもしれないからさ。早く村の中に戻ろう。きっと、ご両親も心配してるだろうからさ。早く顔を見せて安心させてあげようよ」

「はい」


 俺ができるだけ優しい声で明るくそう言うと、三人は少しだけ表情を緩め、うなずいた。


「じゃあ、こっち」


 こうして俺たちは村に侵入できる場所がないかを探して歩きだすのだった。


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 次回更新は 2022/07/11 (月) 12:00 を予定しております。


【お知らせ】

 本作の書籍版が7月15日に発売されます。


 その初版限定特典として、『ユートのカレーライフ~バターチキンカレーにナンを添えて~』が収録されております。


 このお話はユートが勇者召喚に巻き込まれる前のお話です。ユートがお気に入りの店のバターチキンカレーをとにかく美味しく食べます。美味しいカレーを食べた気になれると思いますので、ぜひ(深夜以外に)ご一読ください。

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