第22話 危機一髪
飛びかかられた衝撃で転んでしまった俺はそのままフォレストウルフのしかかられてしまった。俺の首を目掛け、牙の並んだ恐ろしい口が迫ってくる。
万事休す。
そう思ったときだった。
「だめぇぇぇ!」
ジェシカちゃんの声が聞こえたかと思うとフォレストウルフの口が突然視界から消えた。
え? 何が起きた?
慌てて確認すると、フォレストウルフの背中にジェシカちゃんがしがみついている。
あ、これは……助け、られた?
って、こんなところでボーっとしている場合じゃない。
「ジェシカちゃん!」
そう呼びかけるが、ジェシカちゃんはしがみつくのに必死で返事をする余裕もなさそうだ。
しっかりと首を捕まえているのでそう簡単には振り落とされることはなさそうなのが救いといったところか。
俺は急いで駆け寄るとフォレストウルフをジェシカちゃんと一緒に抑え込む。
グ、グルルル。
何とか拘束から逃れようともがくフォレストウルフだが、俺たちも負けるわけにはいかない。
俺だって怪我をしているし、弓も手元を離れてしまった。次に襲われたら二人でもやられてしまうかもしれない。
そうして必死に格闘し続けていると、徐々にフォレストウルフの抵抗が弱くなってきた。
どうやら体力の限界を迎えてくれたらしい。
「ジェシカちゃん」
「はぁはぁ。はい」
荒い呼吸をするジェシカちゃんに合図をすると、俺はフォレストウルフの首筋にナイフを突き立てた。
そしてぐりぐりとナイフを動かすと、さきほどと同様にすさまじい量の血が噴き出してきた。
よ、よし。何とか六匹やれたぞ。
こうして俺たちは血まみれになりながらも、なんとかフォレストウルフの撃退に成功したのだった。
◆◇◆
「あいててて」
噛まれた傷口を川で洗っているのだが、ものすごくしみて痛い。だが、噛まれたのが脛でしかも浅かったおかげで重症にはならずに済んだのがせめてもの救いといったところだろうか。
「ユートさん。ごめんなさい。私が一緒に行きたいなんて言ったから」
「そんなことないよ。ジェシカちゃんのおかげで助かった。ジェシカちゃんこそ、怪我してない?」
「は、はい。私は」
そう言ってジェシカちゃんは腕を隠した。
「そっか。腕を怪我したんだね。木から飛び降りたときかな?」
「え? あっ……」
ジェシカちゃんは恥ずかしそうに俯いた。
「早くジェシカちゃんも傷口を洗って? そしたら傷薬を塗ろう」
「はい……」
そうして傷口を洗った俺たちは傷薬を塗りこんでいく。
「いってぇ」
なるほど。傷薬はこんなにしみるのか。
だが、その痛みに耐えていると噛まれた傷が少しずつ塞がってきた。
相変わらず傷薬の効き目はすごいな。
そうしてしばらく待っていると完全に傷口が塞がった。
まだ少し痛むので完全に治ったわけではなさそうだが、これなら動くのに支障はなさそうだ。
「どう?」
「はい。すごいです。傷痕が完全に消えました」
「あ、本当だ。よかったね」
擦りむいた傷がきれいに治っていて、これならそこを怪我していたなんてたとえ言われてもわからないだろう。
「はい! ユートさんのお薬、本当にすごいです! 行商人が持ってきてくれるお薬じゃこんなにきれいに治らないです」
「ん? そうなの? でもあいつ、足元見ているしなぁ。古かったりするんじゃないの?」
「そうなんですか?」
「わからないけどね」
とはいえ、狼の群れが襲ってきたのだから俺たちだけで長居をするのもの良くないだろう。
先ほど倒したフォレストウルフの血抜きもざっくりではあるが終わらせたので、今日はもう帰ったほうがいいだろう。
「ジェシカちゃん。帰ろうか」
「……はい。そうですね」
ジェシカちゃんは少し名残惜しそうにしているが、状況は理解できているのだろう。素直に同意してくれた。
俺たちはフォレストウルフを持てるだけ持って村へと帰るのだった。
◆◇◆
血まみれの姿で村へと戻った俺たちの姿を見て村は大騒ぎとなった。
「お、おい! ユート! お前!」
「やめて! お父さん!」
ロドニーが血相を変えて俺に突っかかってきたが、ジェシカちゃんが鋭い声でそれを止めた。
「なんで止めるんだ! ユートはお前にかすり傷ひとつ負わせないって約束したんだぞ!」
「お父さんこそ何言ってるの! フォレストウルフが六匹よ? それをユートさんは一人で倒してくれたのよ?」
「だ、だが……」
「あんた! 黙りな!」
ロドニーを一括したのはブレンダさんだ。
「二人とも、よく無事で帰ってきてくれたね。早く体を洗って服を着替えておいで」
「うん」
「ありがとうございます。フォレストウルフはお願いしていいですか?」
「ああ、任せな。さすがにこれは、村長様にうまくしてもらうよ」
なるほど。普段は何か狩っても俺たちだけで終わりにしてしまうのだが、そこを村長様に頼るということはどうやらフォレストウルフが出たというのはそれほどの事件なようだ。
「お願いします」
俺はブレンダさんにその場を任せ、自宅へと向かったのだった。
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