第25話 次の一手

 今日もまた森にやってきた。ここのところ狩りまくっているおかげで狩人のレベルは一つ上がって16に、戦士のほうはもう12にまで上がった。レベルが上がるにつれて急激にレベルアップしづらくなるのはSCOと同じ仕様のようだ。


 もちろん、村人もレベル10に到達したので新たな職業を追加した。その職業はなんと、醸造師だ。


 この醸造師を選んだのにはもちろん理由がある。


 まず醸造師はその名のとおり、お酒を作れる職業だ。SCOではポーションを作れる上級薬師へと転職するために必要な基本職の一つだった。それとお酒は飲んでからログアウトし、一定時間が経ってから戻ってくるとほんのわずかだが経験値ボーナスが貰えるというちょっと面白い仕様があった。そのためSCOのプレイヤーは大抵の場合、醸造師の職業を取っていたというのはなんとも懐かしい記憶だ。


 もちろんこの世界でそれが反映されるのかはわからないが、今回の狙いはそれではない。


 タークリーが俺の足元を見てくるのであれば、村長に直接売れば良いと考えたのだ。


 というのも、この世界ではどうやら酒は貴重品らしい。なぜならタークリーだってお酒はたまにしか持ってきていない。にもかかわらず、以前村長様の家を訪ねたときにお酒の瓶が飾られていたからだ。


 であれば、希少価値から村長様にも強気に交渉できると踏んだのだ。


 ちなみに今回挑戦するのは蜂蜜酒ミードだ。


 本当ならビールやワイン、ウィスキーといったお酒を造りたいところだが、残念ながら原材料が足りなかった。


 だがこの前狩りをしようと森を歩いていたとき、偶然ミツバチの巣を発見した。蜂蜜酒はSCOにも登場していたため、ミツバチの巣を見つけてすぐにこの作戦を思いついたというわけだ。


 なので今日は蜂蜜を取って、それを原料に醸造をしようと思う。


 そんなわけで、発見したミツバチの巣にやってきた。


 早速メニューから作ったSCO印の革の防護服を着込むと、木のうろにできたミツバチの巣へと近づいていく。ミツバチたちが俺の近くを飛んでいるが、今のところは攻撃されるということもない。


 巣の目の前までやってきた俺は、ミツバチを刺激しないよう慎重にうろの穴を広げていく。


 だがさすがにここまでやればミツバチにも外敵が来たと認識したようで、一斉にお尻を振っている。


 これは、こちらを威嚇しているのだろうか?


 やがてこちらに飛びかかってくるミツバチも現れるが、そこは分厚い革で作られた防護服だ。刺されたとしても何ともない。


 やがて巣板が露出した。


 俺はそれを容赦なく剥ぎ取って袋に詰めていく。


 ここまでやるとさすがにミツバチは激怒して俺に群がってくるが、なんとか防護服は耐えてくれている。


 さすがはSCO印だ。


 こうして結局大量のミツバチに群がられながらもなんとか蜂蜜を手に入れた俺は村へと戻るのだった。


 あとはこれを加工するだけだ。


 うまくいってくれると良いのだが……。


◆◇◆


 今日も今日とて毛皮の加工にいそしんでいると、ロドニーがひょっこりと尋ねてきた。


「なあ、ユート。お前、ちょっと最近がんばりすぎなんじゃないか?」

「そうなんだが、来年までに十万デール集めなきゃいけないんだ」

「十万? なんでそんな大金を」

「税金だよ。それを払えなけりゃ滞納で農奴にされるんだとさ」

「は? 平民になってもそんなにかかるのか?」

「あの村長様が、お前は稼げそうだからって」

「そうなのか……。平民も大変なんだな」

「そういえば、農奴はお金を払えば平民になれるんだったよな」

「おう! そうだぞ。百万デール払えば平民になれるんだ」

「ん?」


 俺が十万貯めるだけでもこれだけ絶望的なのに、現金収入のないロドニーたちでは絶対に無理なんじゃないか?


「どうした?」

「いや。ロドニーたちは平民になりたいんだよな?」

「ああ。そうだぞ。がんばって貯金しているからな」

「……いくらくらい貯まったんだ?」

「ん? いくらぐらい? ええと……いっぱい?」


 あ、これはもしかして……。


「あといくら貯めなきゃいけないかわかってるか?」

「あといくら? んんん?」


 ロドニーはそのまま悩んでしまった。


「なあ、ロドニー。一年間に五万デール貯められたとして、百万デール貯めるのに何年かかるか分かるか?」

「ん? んんん? ええと、一年間に五万デールだから……。五、六、七、八……」


 そのまま指折り数え始めたが、十で止まってしまった。


「お、おい。ユート。なんだこの難しいのは」

「いや、その……。まあ、二十年だ」

「二十年!? そんなにかかるのか?」

「ああ。そういう計算になる」


 やっぱりか。どうもおかしいとは思っていたが、ロドニーは計算ができないようだ。


「ユート。お前実は頭いいんだな! この村で計算ができるのなんて村長様くらいだ!」

「なるほど。じゃあ、文字の読み書きができるのはどのくらいいるんだ?」

「それも村長様くらいだな! まさかユート。お前、文字の読み書きもできるのか?」

「そうだな」


 村長様の家で地図に書かれた文字は普通に読めたので、おそらく問題ないはずだ。


「おお! やっぱり平民ってすげぇんだな!」

「いや……」


 これは確実にあの村長様が原因だろう。思い返してみればこの村に学校なんてないし、文字だって地図で見たのがはじめてだ。


 きっと、あの村長様にとっては村人は馬鹿なままのほうがやりやすいということなのだろう。


 うすうすはわかっていたが、このことで確信した。


 どう考えてもあいつはまともじゃない。


 村長なら村人の生活を良くするために権力を使わなきゃいけないはずなのに!


 これは……やはり脱出しかないかもしれないな。


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