第24話 下請けはつらいよ
それから俺は必死に傷薬と解毒薬の製造を行った。朝早く起きてガラス焼き窯に火を入れ、焼いている間は森で薬の材料を採集する。
そしてお昼に戻ってきてからはひたすら傷薬と解毒薬を調合して瓶に詰めていく。
これを毎日毎日延々と繰り返すのだ。しかもその合間に森で狩りをしつつ村人たちとの物々交換用の日用品を作るという生活だ。
俺の働いていたブラック企業は月月火水木金土だったが、今は月月火水木金金だ。休みというものが存在しない。
そうして二週間かけて必死に作り上げた傷薬と解毒薬はそれぞれ百個と五十個だ。
あの行商人のタークリーがやってきたそうなので早速買い取ってもらいにいく。
「はい。いらっしゃい。ああ、あんたか。今回は買うのか? それとも売るのか?」
タークリーの態度は相変わらずの横柄だ。こいつ以外に商売敵がいないと分かっているからこんな態度で商売ができるのだろう。
だが、こいつ以外には売り先がないのだから下請け業とは悲惨なものだ。
「ああ。売りに来た。傷薬と解毒薬を買い取ってほしい。すべてこいつと同じ品質だ」
俺はサンプルでひとつずつ手渡した。
「ほう? 村人が傷薬と解毒薬ねぇ」
そういって俺の手渡した瓶をじっと眺める。
「まあ、色は悪くないが、質はいまいちかねぇ。きちんとした機材がない場所で作られたならこんなものか……」
ぶつぶつと俺の渡した薬を鑑定していく。
「よし。傷薬と解毒薬、どちらも一つ五デールでどうだい?」
「えっ? たった?」
「それは仕方ないでだろう。だって、薬師でもない村人が作った薬なんて高く売れるわけがないだろう? そもそも、買い取ってやるだけでもありがたいと思って欲しいものだよ。嫌なら他を当たってくれ」
「う……」
なるほど。たしかに工業製品ではないんだから、村人が適当に調合した傷薬なんて怖くて買えないかもしれない。
となると、買い取ってもらえるだけでもありがたいということか。
ぐぬぬ。無駄な労力を使ってしまった!
「わかったよ。じゃあ、在庫を持ってくるからお金を用意しておいてくれ。傷薬百個に解毒薬が五十個だ」
「はいよ」
こうして俺は六百五十デールを手に入れた。
だが税金は十万だ。これでも1%にすら満たない。
あと半年しかないのにこの程度の稼ぎでは話にならないだろう。
というかこれ。可能な金額なのか?
◆◇◆
この二週間で村人のレベルがまた上がったので、今度は戦士の職業を取得した。戦士は前衛の戦闘職で、剣の他にも斧や槍といった武器を扱えるのが特徴だ。
だが防御寄りで素早さが低いため、SCOでは前衛のタンク役として設計されていた職業だ。似た職業に防御を落として素早さを上げた職業に剣士というものもあるが、これは扱える武器が剣だけになってしまうので今回は戦士にした。
なぜなら、この村ではきちんとした剣を用意することができないからだ。
それ以外にも素手で戦う武闘家という選択肢もあったが、これは素早い代わりに柔らかいという特徴がある。俺は基本的に矢で倒すつもりなので、前衛職は硬いほうが良いと考えて武闘家は選ばなかった。
またお金が必要なのにどうして生産職ではなく戦闘職をとったのかというと、いくら作ってもぼったくられるだけなので商品を売るだけでは無理と判断したからだ。
となると森に入って狩りをする必要があり、森へ何度も行くとなると前のようにフォレストウルフの群れに襲われる可能性がある。そうなったとき、前衛の戦闘職を持っていたほうが対処しやすいと考えたのだ。
とはいえ、フォレストウルフを狩ってもほんの数百デールにしかならなかった。これでは森中の動物をすべて狩りつくしたとしても税金を収めることはできないだろう。
だがまだ希望はあって、俺は革工師の職業を持っている。この職業であれば皮をきちんと加工して革製品にすることができるし、皮の防具だって作ることができる。
そうすれば、いくらあのぼったくり商人でもきちんとした値段で買い取らざるを得ないはずだ。
そんなわけで、俺は今日も森へと出掛けるのだった。
◆◇◆
今日はイノシシと鹿が一頭ずつ狩れたので、これを加工しようと思う。
まずは持ち帰ってきた鹿とイノシシの皮をメニュー画面から
この鞣し加工をしないと皮がカチカチに固まってしまったり腐ってしまったりする。それを防ぎ、製品として使えるようにするのがこの工程だ。
詳しい原理はよくわからないが、必要な材料を加工用の桶に入れてメニュー画面から選択すればあとは勝手にやってくれる。
ただ、この必要な材料というのが動物の脳みそだったのには驚いた。SCOでは動物を狩ると毛皮と一緒に『なめし加工液』というアイテムが落ちることがあってそれを使って加工していたのだが、まさかこんな仕組みだったとは。
これに気付いたのは『なめし加工液』をインベントリから出したら脳みそだったからなのだが、最初に脳みそが出てきたときは本当にびっくりした。
昔の人はどうしてこれで皮をなめし加工しようと思ったのか、つくづく不思議に思う。
とはいえ、一度やってしまえばまあそういうものかと気にならなくなるのだから慣れとはなんとも恐ろしい。
まあ、どのみちインベントリから選択してメニューからポチっとやるだけなのであまり関係ないといえば関係ないのだが。
こうしてなめし加工をした皮や毛皮を使って製品にするというわけだ。
さあ、待ってろよ! 今度こそ高値で買い取ってもらうからな!
=========
次回「第25話 次の一手」の更新は明日の夕方から夜ごろの更新となります。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます