2-7


 結果、ボッコボコにされました。

 十数人の子供から絶え間ない手加減なしの連続攻撃を浴びせられて、パンチとキックとその他諸々全部ボディで受けるハメになった。相手は幼児なので対抗する訳にもいかず、されるがままにフルボッコ。かなり痛かったです。はい。

 でも、そのおかげで子供達と打ち解けることが出来た。梨々花ちゃんを狙うライバルって設定はそのままみたいなのは納得いかないけど。

 その後は一緒に工作したりダンスを踊ったり、それなりに仲良く過ごすことが出来た。給食の時間でもワイワイ大盛り上がりで、質問攻めが凄かった。主に梨々花ちゃんとの関係についてだけど、そこは「近所で仲がいい」の一本勝負で押し通した。別に嘘は言っていない。あくまでも好きなのは母親の方なのだから。


「ふぅ……、子供ってほんと、元気だなぁ」


 職員室の隅っこ、たたみが敷かれた和室のような区画で一息つく。

 食後の休憩タイムということで、僕達学生のために体を休められる場所を用意してくれたのだ。

 窓の外から、子供達のはしゃぎ回る声が響いてくる。鬼ごっこやドッヂボール、アスレチック遊具などなど各々好きな遊びをしているようだ。僕達と同じくらい動き回っているはずなのに、小さな体のどこにそんな体力があるのか。エネルギー無尽蔵なのか、不思議でたまらない。


「あの……犬飼君」


 一緒に休んでいた胡桃沢さんが、ぬぅっと顔を出してきた。長い髪の毛のせいでホラーチックな声のかけ方だ。


「うわぁっ!?な、何かな?」

「えっと、その……犬飼君、すごいな……って」

「ど、どうしたの急に」


 いきなり褒められて面食らってしまう。

 別に嫌な気持ちはしないけど、唐突過ぎて反応に困る。


「だって、子供の相手……大変だって言ってたのに、ちゃんと出来てたから」

「あぁ……ここに来る前にした話ね」


 保育園までの道中で質問し合った時の、言い訳みたいに言ったことを覚えていたらしい。反応が少なくて困惑したけど、ちゃんと聞いていたようだ。


「子供に合わせてヒーローごっこして……凄く懐かれてたみたいで……」

「いや、それほどのことじゃないから……」


 褒められるようなことじゃない。

 ごっこ遊びの知識は哲君から伝授してもらったし、その発端になったのも梨々花ちゃんとの交流があったからだ。僕自身に元から備わっていた力なんかじゃない。

 そもそも僕に趣味や特技なんて、人に誇れるようなものはないんだから。


「あの子……梨々花ちゃんって子との関係が、よく分からなかったけど」

「うっ……」


 あ、余計なことも覚えていたんだ。

 それは忘れてくれて構わなかったんだけど。


「り、梨々花ちゃんとはお隣さんってだけだってば。千夏さん……梨々花ちゃんのお母さんからよく頼まれごとをされて、それでお風呂に入れてあげることがあっただけで、下心があってやったんじゃないからね?」


 わたわた、と早口で弁解する。繰り返しになってしまうけど、これしか説明のしようがない。なし崩しで家族みたいな間柄になっている、本当にそれだけなのだから。


「犬飼君ってロ……ロリコンなの?」

「断じて違うよ!?」

「なら、いいけど……」


 察していた通り、胡桃沢さんは酷い勘違いしていた。是非ぜひ、今日の一件はきれいさっぱり忘れてほしいです。お願いします。

 大体僕が好きなのは、千夏さんのような年上の女性で、豊満な胸に目を奪われるんだ。真っ平らで毛も生えていないような歳の子なんて、最初からアウト・オブ・眼中だ。

 確かに梨々花ちゃんは千夏さんの子供で、顔立ちや髪質なんかそっくりだけど、似てるから好きになるというのもおかしい話だ。

 僕が千夏さんを意識するようになったのは……そりゃあ見た目がストライクゾーンど真ん中だったのもあるけど、何よりも女手一つで奮闘する人となりにれたんだ。見た目だけの一目惚れなんかじゃない。

 とにかく、僕はロリコンじゃないってことだけは胸を張って言える。


「悠都さん。休んでいるところ悪いけど、ちょっといいかな?」


 和室にひょっこりと顔を出したのは、担任の榊先生だ。疑いの眼差しを向けてきたあたり、この人も僕のことをロリコンだと勘違いしていそうだ。


「梨々花ちゃんとの件なんだけど……」


 ほらきた。

 まるで職務質問されているような気分だ。あまりいい気分じゃない。


「お昼休みに梨々花ちゃんのお母さんに電話したんだけど」

「したんですか」

「お風呂に入ったのは本当なのね」

「まぁ、はい」

「でも、お母さんの方からのお願いだったって話は、本当だったんだね」

「だから言ったじゃないですか……」


 完璧に信用されていなくて、もはや笑えるレベルなんですが。

 何なの、僕どう思われてるの?


「その……疑ってごめんなさい」

「い、いいですよ、別に……大したことじゃないんで」


 十分大したことだったけどね。危うくロリコン犯罪者として目を付けられるところだったんだもの。

 ひとまず誤解も解けたようだ。大事にならなくて良かったと心底思う。

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