第一章:初恋、お願い、遊び合い。
1-1
ピピピピ……ピピピピ……――チンッ。
目覚まし時計を止めて、
僕は気合いを入れて、安楽の布団から抜け出した。
「ふわぁ……」
「おっと、早く支度をしないと」
寝汗を吸ったパジャマを洗濯カゴに入れて、手早く制服に着替える。朝は時間がないので、洗濯機を回すのは帰ってきてからだ。まだ五月なので問題ないけど、夏場になったら汗特有の激臭がするんじゃないか、と今から
「今日も……パンでいいか」
袋から食パンを二枚取り出して、ハムとチーズを適当に
本当は腹持ちの良いご飯が食べたいところだけど、片付けていたら遅刻してしまうし、放置していったら虫が湧いてしまいそうで嫌だ。なので簡単に食べることが出来るパンが、毎朝のメニューに固定されてしまった。足りない野菜は学校の購買か、夕食の
「よし、これでオッケー」
歯を磨いて、顔も洗って。
電気、ガス、水道。どれも全部スイッチをオフにしてあるので良し。
僕は通学
軽風に乗ってふわりと、緑色の香りが漂ってくる。温かな日差しも合わさって、心地良い朝の風景だ。
階下には同じように通学しようとマンションを出ていく人や、忙しそうに走っているサラリーマンの姿が見えた。最上階……と言っても四階建てなので、人々の様子がはっきりと見える。
マンションで一人暮らしを始めてから一ヶ月ちょっと、毎朝の景色にも慣れてきた。最初は不安もあったけど、今ではこの生活が当たり前になってきた気がする。
なんて言っても、まだまだ一人暮らしビギナーなんだけどね。
「あ、悠都君。おはよう」
「おはよ~っ」
母親の
「お、おはようございます……」
僕はぺこりと頭を下げて、
玄関先でばったり会ってしまったせいで、僕の心臓はバクバクと高鳴っていた。好きな人の顔が目の前にある、それだけで顔が熱を帯びてしまう。
星乃千夏さん。
隣に住んでいるシングルマザーで、まだ若いのに女手一つで娘を育てている。きっと想像出来ないくらいに大変なことばかりなはずなのに、いつも明るく振る舞っている。子供と同じくらいに元気で、まるで満開の花みたいな女性だ。
そんな姿に、僕はいつしか惚れていた。視界に入れば釘付けで、目が合うと鼓動がドキドキ止まらない。
初恋だった。
だけど僕との関係は部屋が隣同士というだけで、深い付き合いは全然ない。朝や夕方に玄関先で会ったり、時々すれ違ったりするくらいだ。僕のことだって「最近越してきた学生さん」くらいにしか思っていないだろう。
それに、僕には告白するような勇気はない。思いを伝えたところで結ばれないだろうし、千夏さんだってこんな一人暮らし始めたてピチピチの、社会のことを何も知らない学生相手じゃ嫌だろう。そもそも僕はまだ高校一年生で、結婚出来る年齢じゃないのだから。
「あれ~?ゆーとさん、おかおまっかっかだよ?おねつある?」
「ふぇっ!?」
くりくりの
そんな梨々花ちゃんに心配されて、僕はのけぞり慌てふためいてしまう。
別に熱なんてないけれど、千夏さんの目の前で指摘されたのが恥ずかしかった。これじゃあ僕が好意を持っているって、意識しているってバレバレみたいじゃないか。
「い、行ってきますっ!」
この気持ちは胸の中だけで留めておくつもりでいたのに、もし気付かれてしまったら大変だ。これから会う度に、まともに顔を合わせられなくなってしまう。
「うぅ……」
引っ込み思案で一歩踏み出す勇気がない、そんな自分を変えるためにも家を離れたのに、何一つ成長していない。
僕は自分の気持ちに
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