2-2
「ふぅ…………――じゃあ、お風呂入ろっか」
「えー、おいろけこうげき、ぜんぜんきかなかったの~?」
「大きくなったら効くかもね」
「ぶ~っ」
平常心になれば大丈夫。
激しくビートを刻んだ心臓の鼓動も、段々と収まってきている。
過激なことを言ったって、梨々花ちゃんはまだ子供。下ネタを言いたがる男子と大して変わらない。そう思えば振り回されることなんてないんだ。
でも、一応。
タオルを腰に巻いて入ろう。
※
湯船に入る前に、まずは体を洗わないといけない。
泥遊び後に水浴び程度はしたらしいけど、梨々花ちゃんの体には細かい土らしき物がこびり付いている。特に首回りや関節の部分は落ちきっていない。このまま湯船に入ったら土が溶け出して、水が汚れてしまう。
「シャワー出すよ」
「うわ~っ、みずジャージャーだ~っ♪」
レバーを思い切り捻ったので、シャワーヘッドから勢いよく水が噴き出してくる。
そんな当たり前のことに、梨々花ちゃんはケラケラと楽しそうにしている。
「頭にお湯をかけるから、目を
「は~い」
水が温かくなってきたので、梨々花ちゃんの頭を濡らしていく。ふわふわしていた髪の毛は、流水であっという間に束になる。
「きゃーっ!」
「だ、大丈夫!?」
「うん、だいじょうぶだよー」
お湯にびっくりしてしまったらしい。
いきなり
「ゆーとさん、はやくあらってー」
「わ、分かってるって」
それから悪戦苦闘の後、シャンプーと洗顔はなんとか無事終了。そして魔のボディウォッシュの幕開けだ。
梨々花ちゃんが催促してくる。だけど僕は及び腰、体に触れるのが怖くておっかなびっくりな体勢のままだ。
それもそのはず。頭や顔以上に触れるのが
「ねぇねぇ、あらってよ~?」
「うぐ……」
千夏さんからの入れ知恵もあるから、梨々花ちゃんは理解して言っているんだろう。
「もしかして、りりかのはだか、しげきつよすぎた?」
「だ、だから、そういうことじゃなくて……」
「ゆーとさんになら、なにされてもへいきだよ?」
「いやいやいや、ダメだって……」
これ、完全に誘惑だ。
性的な知識をどこまで仕入れているかは不明だけど、男が好みそうなポイントを的確に突いてくるこの手腕。
千夏さんの教育の
これはどう対応するのが正解なのか。そんな手をこまねいている僕を見た梨々花ちゃんは――
「ふん、いいも~ん。りりか、じぶんであらうもんっ」
――濡らしたボディタオルを手に、体を洗い始めた。
ゴシゴシガシガシ、子供らしく雑な洗い方だ。
「あ、あの梨々花ちゃん……」
「いいんだよ、ゆーとさん。はじめてだから、きんちょーしてるんだもんね」
「えぇ……」
なんか、気を遣われたみたい。
返答に困る僕のことを気にせずゴシゴシ、どんどん泡まみれになっていく。
「ゆーとさん、ながしてー」
「う、うん」
全身泡で覆われた梨々花ちゃんに、お湯を優しくかけてあげる。もこもこの泡はあっという間に流れ落ちて、排水溝へと吸い込まれていく。そして汚れ一つない、梨々花ちゃんのすべすべ素肌が現れた。
見てはいけないと思い、僕は目を背ける。
当然だ。幼児とはいえ女の子の裸だ、じろじろ見て良いものじゃない。
なのに――
「うふ~ん❤どう、ゆーとさん?」
「『どう』、じゃないってば……」
――梨々花ちゃんは派手に見せびらかそうとしてくる。しかも僕に絡みついてきて、肌を触れ合わせながらだ。
「りりかってぇ、みりょくてき?」
「そ、それは、かわいい……とは思うけど」
「えへへ、やっぱりぃ?じゃあ、はずかしくてもしょーがないよね~」
どうやら梨々花ちゃんの中では、「僕が恥ずかしがっている」という認識らしい。確かに裸から目を逸らしているし、腰にタオルを巻いて隠しているし。そう思われる要素だらけだった。
「けっこんするときまでに、なれればいいもんね」
「ああ、うん。そ、そうだね……」
子供が言う「結婚したい」は当てにならない……はずなんだけど、親公認だから微妙なところだ。
明日までに忘れてくれるなら、いくらでも嘘で取り繕えばいい。だけどこの場合、本当に結婚することになりかねない。しかも僕が一番好きな人からの、最上のお墨付きをもらった状態で。
だけどきっぱり断れるほどの勇気を、僕は持っていない。
それに、子供の夢を壊すみたいで気が引ける。
このままズルズルと、梨々花ちゃんが大きくなるのを待つしかないのだろうか。
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