終章-1
「オレとしては、ピュアポーラーが一番だな。ピュアルミでは珍しい野生の大型動物モチーフで、荒々しいバトルスタイルが新鮮なんだよ」
「へぇ、そうなんだ。初めて見た作品だからあれが普通かと思ってた」
「そこは是非とも初代から見てもらいたいね」
「消化時間が足りないよ……」
「で、悠都はアク☆ルミの中で誰推しなんだ?」
「えっ。うーん、推しって言われても……」
「ほら、お気に入りとか可愛いから好きとか、ザックリした感じでいいんだよ」
「じゃあ、ピュアジェリーかな。梨々花ちゃんも好きだし」
学校の休み時間は相変わらずオタク談義だ。哲君の熱いオタク魂の影響もあってか、今ではそこそこ話についていけるようになった。最初は梨々花ちゃんと話を合わせるために知識が欲しかっただけなのに、いつの間にか僕もこの界隈に片足を突っ込んでしまったのだ。いわゆる沼という状態らしい。どっぷり浸かったら抜け出せなくなる危険地帯だ。
でも、空っぽのつまらない人間だった頃より、夢中になれるものがある方がよっぽどいい。
「そっか。悠都はロリもいけるってことか」
「ちょっ!?何でそうなるの!?」
思わずチョップという、激しいツッコミを入れてしまう。哲君の脳天に鋭く一撃、必殺の
ピュアジェリーは俗に言うピンク枠でフリルいっぱいの、可愛さ全振りのキャラクターではあるけれど、ロリ系だから好きになった訳じゃないから。むしろファンシーなオシャレさから、女性人気の方があると思うぞ。
「いてて……だって梨々花って子の影響だろ?ってことは、案外その子のことが気になってきてるんじゃねーのかなって」
「そっち!?梨々花ちゃんとは何もないからね!?」
「でも結婚迫られてるじゃん」
「そーだけどね、一切進展してないよ!?」
と、この一件はいじりのネタとして完全に定着してしまった。鉄板ネタというヤツなのだろう。
梨々花ちゃんからのラブアピールは日に日に激しさを増しているけど、『仲良しなお隣さん』以上の関係にはなっていない。ただの近所のお兄さんだ。
「お前が大好きな人の娘なんだから、遺伝してきっといい女になるんじゃないか?」
「うっ……。それは本人のお墨付きなんだよなぁ」
「おいおい、決まりじゃねーかソレ」
そっくりに育つであろうことは、以前に千夏さんが予想していた。顔立ちも髪質も同じなんだ、将来の姿が似ることだって当然あり得る。というか、その可能性が一番高いだろう。もし本当に梨々花ちゃんの気持ちが変わらず、大きくなってからも愛の告白をしてきたとして、更に千夏さんの後押しも加わったら、僕はどう答えるのだろう……。
それはずっと先の話になりそうだ。しかし、いつか来るであろう未来の話なんだ。
今から丁度十年後、その時の僕は……。
「い、いい犬飼君っ。まさかあの子と付き合うんですか!?」
「うわぁっ!?また出たよ!?」
無音で、ぬっと生えてくる胡桃沢さん。毎度のことだけど驚いて、過剰なくらいに飛び退いてしまう。素っ頓狂な声も相まって、びっくり動画にしたら高評価がもらえそうなワンシーンだ。
心臓に悪いからいきなり現れるのはやめてほしいのだけれど、全然改善する気配がない。気配を消すのが癖になっているのだろうか。
「ダメですよ、犬飼君。ロ、ロロロリコン堕ちはダメ、絶対!」
薬物濫用防止の標語みたいな言い方。
何やら盛大に妄想が暴走しているみたいなんですが。彼女の中の僕は、一体どんな風に映っているのか、悪い意味で気になってしまう。
「落ち着け、胡桃沢。幼女がいける可能性はあるけれど、こいつの好みは基本ボンキュッボンだから」
表現が古いよ、哲君。おじさん世代しか使わなさそうだよ、その言い方。
あとさらっと酷いこと言ってない?断じてロリコンではないからね。
「わ……私だって、幼女よりはある……から」
胡桃沢さんは何を張り合っているんですか。
胸は揉まなくていいですから。男子高校生には刺激が強いんでやめて下さい。
なんて、特筆することのない、平凡な一日が過ぎていく。
哲君と胡桃沢さん、そして僕。
オタクと陰気と中身空っぽ。三者三様のはみ出し者が、気付けば寄り添うようになっていた。
これがきっと友達、青春なんだと思う。
ここが僕の、新しい居場所の一つなんだ。
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