1-5
「ピュアルミ・スプラッシュチェンジ!」
掛け声と同時にくるくる回りだす梨々花ちゃん。お気に入りのキャラクターになりきっているようで、片足立ちしたりピースしたりとダンスとポーズを交えて、可憐な変身シーンを再現していた。本家の映像を知らないので、再現度は比較出来ないけど。
「ゆらめくうみのおつきさま、ピュアジェリー!」
最後はスカートの端っこを持つような所作で、お嬢様らしい決めポーズだ。
梨々花ちゃんイチオシのピュアルミ――ピュアジェリー。くらげの力で宙に浮いたり電撃を放ったりする戦士だ。フリルいっぱいの可愛さ満天スカートがチャームポイントらしいけど、本人は半ズボンを履いているせいでいま一つ締まらない。
「で、出たなピュアルミぃ……きょ、今日こそ決着をつけてやるぅ……!」
一方、僕の役は敵の幹部怪人だ。ヘドローダという名前で、海を汚す悪いヤツ。見た目は名前の通りドロドロしており、いつもピュアルミに酷いことをするらしい。
「い、行けっ、ヨゴシタル!…………ヨ、ヨゴシタールーゥ!」
それと兼任で、怪物のヨゴシタル役だ。毎回新しいタイプが出てくる、いわゆるやられ役で、いつも最後はきれいにされちゃうそうだ。浄化する、というかんじなのだろう。自然保護が題材なんだろうか。
「またうみをよごすなんて、このピュアジェリーがゆるさないんだからねっ!」
ビシッと指を指して、梨々花ちゃんが
「くらえ、ジェリーサンダー!」
「ぐわわわわわわわわわわわわわわわ、
技名からして電撃を放ってきたみたいなので、感電したような演技をする。アニメでも多分こんなかんじだろう。
「ジェリーパーンチ!」
「うごっ!?」
「ジェリーキーック!」
「ぐぅっ!?」
続けて格闘技だ。
攻撃するフリだけかと思ったら、どっちも足に直撃。キックに至っては右の
「ぐおぉぉ……っ」
蹴られたところを押さえて、オレはうずくまってしまう。
想像以上に重い蹴りだった。骨の
子供が相手でも痛いものは痛い。涙が出そうだ。
「ゆーとさん?もしかして、りりかのキック、いたかった?」
「はは……。大丈夫、大丈夫」
「悪いことをしてしまった」と思ったらしく、梨々花ちゃんはしゃがんで蹴ってしまった部分を
僕と遊べるのが嬉しくて、勢い余って当ててしまったのだろう。千夏さんの教育の
「いたいのいたいの、とんでけー」
懐かしい響きが、梨々花ちゃんから漏れ出す。
小さい頃、転んだ時によく言われたフレーズだ。その言葉で痛みがなくなることはないけど、何故かみんな口にする魔法の言葉。今も変わらず使われているようだ。
「いたいのいたいの、もみもみー」
「いや、
と思ったら、今度は脛を揉み出した。どんなおまじないだ。
「およ?おきゃくさ~ん、こってますね~?」
「は、はぁ……まぁそれなりに」
いつの間にかマッサージ屋さんごっこになっているし。
子供は自由気ままで飽きやすいって聞いたことがあるけど本当らしい。ピュアルミごっこはどこにいったのやら。
「きになるとこはありますか~?」
「そ、そうだね……肩とか?」
「じゃあ、かたたたきしますねー」
梨々花ちゃんの頭の中は、もうマッサージ屋さんごっこに切り替わったみたいだ。でも、知らないごっこ遊びをするよりか、こっちの方が分かりやすい。それに肩を叩いてもらえて一石二鳥だ。肩こりになるほど年老いてはいないけど。
「とんとんとん~♪」
「ああ、気持ちいいよ」
「もみもみもみ~♪」
「梨々花ちゃん、上手だね」
「こっちももみもみもみ~♪」
「……――って、ちょっと待って!?」
肩叩きから肩もみに変わり、そして今度は僕の股間を揉み出す。自然な流れでやり出したので、衝撃と疑問で飛び退いてしまった。
「な、ななな何してるの、梨々花ちゃん!?」
いつからいかがわしいマッサージ店になったんだ。ごっこ遊びで夜の営みとか、発想が斜め上過ぎる。
「ん、ふつーのマッサージだけど?」
「いやいやいや、絶対おかしいって。そこは揉まなくていいんだよ!?」
「えー?だっておとこのひとって、おち○ちんもみもみされるの、だいすきってきいたのになー」
「……は?」
梨々花ちゃんの口から爆弾発言――それも核ミサイル級の破壊力も持つ言葉が発射された。
「ママがいってたんだもん。すきなひとにやれば、こいびとになってくれるかもって」
待て待て待て。
梨々花ちゃんは何を言っているんだ?
ママ――千夏さんがそんな『男をオトすテク・下ネタ編』みたいなことを……?
あんなに毎日身を粉にして仕事と子育てを両立している人が、夜の直球勝負な話をしていたなんて……。
でも梨々花ちゃんが産まれたってことは、つまりそういうことをしているのは確定だから、一応あり得ない話ではない。
だからといってそれを、こんな
というか、「僕にやれば恋人になってくれるかも」って教えたということは、もしかして梨々花ちゃんは――
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