幕間:胡桃沢ここねの妄想時間
私はいつも教室の端っこが定位置だ。
クラスの中ではなるべく目立たないように、派手な格好はせず静かに座っているだけ。誰かとしゃべったり騒いだり、そんな楽しさなんて共感出来ない。だから自分から関わろうとしなくなり、集団では気配を消すようになっていった。
いつもぬぼーっとそこにいる。おかげでついたあだ名は『
進学したって高校デビューする気なんて全く起きず、地味に学校生活を送るだけだった。
そんな中、シンパシーを感じる人が一人だけいた。
犬飼悠都君だ。
彼は私と同じで周囲に合わせることはなく、かといって唯我独尊で我が道を行くこともなく、目立たず騒がず学校で過ごしている。親しい友達も不動哲雄君くらいだ。
大勢で集まって無意味にテンション上げような、パーティが好きそうな人達とは迎合しない。かといって陰気でじめじめした性格って訳でもない。
そんな犬飼君のことが、段々気になるようになっていた。
だから職場体験の行き先が同じだってことを知った時、興奮のボルテージが上がり心臓が激しく暴れまくった。
いつもは教室の端から見ているだけだった彼と、一日同じ空間で過ごすことが出来る。そう思うと妄想が駆け巡ってしまい、夜も眠れなくなってしまった。おかげで当日は寝坊してしまい、待ち合わせに遅れるという失態をしてしまった。。
だけど犬飼君は笑って許してくれて、それどころか無口な私を気遣って、何度も話しかけてくれた。
すごく、嬉しかった。
こんな私のために、一生懸命になってくれて。
それなのに自分は全然応えられなくて、申し訳なくなった。
保育園では驚きの連続だった。
梨々花ちゃんっていう明るくて可愛い、私とは正反対な子と仲が良くて、しかも一緒にお風呂に入っているって聞いて、もやもやした感情が噴き出した。
似た者同士だと思っていたのに、全然違った。
犬飼君のそばには人気者の素質がある子がいた。
子供達の気持ちに応えて遊んでいて、とても懐かれていた。
そのせいで、余計に犬飼君のことを意識してしまうようになった。
だから、子供に見抜かれたと知った時は、心臓が飛び出しそうにだった。
私がずっと彼のことを見ていたって、バレるなんて思わなかった。
そして梨々花ちゃんに「ダメ」「とらないで」って言われた時、私はやっと自分の気持ちの正体が分かった。
私は、犬飼君のことを好きになっていたんだって。
「あああああああああっ、んもおおおおおおおっ!恥ずっかしいいいいいいっ!」
帰宅してからベッドの上でのたうち回る私の図。枕に顔を何度も打ち付けて、悶え苦しむ座敷わらしが約一名です。
「もうもうもう、何よ何なのよこの気持ちっ!?胸のドキドキ止まらないし耳まで真っ赤だし頭ぐるぐるパニック真っ最中だし、これが『好き』って感情なの!?少女漫画的に言うとキュンキュン!?」
「うるさいわよ、ここね~」
叫びすぎてお母さんに怒られてしまった。反省。
でも初めての感覚に襲われた私の、ヒートアップな暴走モードは止まりそうにない。外では決して出さない奇声がどんどん漏れ出してしまう。
「梨々花ちゃんと仲良しみたいだけど、好き同士ってことじゃないんだよね?『結婚する』とか『お婿さん』とか一方的に言っているだけだもんね、うんうん。それに犬飼君は別にロリコンじゃないみたいだから、私にもワンチャンあったりして……ぐふふふふふ」
また怒られたくないので、なるべくサイレントに妄想する。
いくらちびっこが結婚を申し出たところで、大人になるまでは絶対無理だ。それに犬飼君にはその気がないみたいだから、今は実質フリーってことだ。
しかも子供好きで一緒に遊ぶような人だから、子供が出来たらきっといいパパさんになりそうだ。結婚相手としては最高の男性かも。
「え!?それって私との子供!?やだ、そんなこと……あったりするかもしれない!?じゃあ、子供の名前は!?どんな子に育てる!?あーもう、悩んじゃう~っ!うふふふふふふふふふふふふ」
まだ犬飼君との接点は少ないけど、これからいっぱいアプローチしていけば、彼のハートを射止めることが出来るかも!?
そしたらそしたら、ラブラブ結婚生活にゴールイン!?
座敷わらしだって幸せゲット出来ちゃうってこと!?
「……――って私、何考えているんだろ……」
感極まったあたりで、一気に冷静になる。
いわゆる賢者モードという状態に入りました。
「よく考えたら、私みたいなじめじめ女なんかじゃ釣り合わないよね……あはは」
シンパシーを感じた相手だけど、犬飼君から見たら私なんて陰気なナメコ程度にしか見ていないよね。それに近くに梨々花ちゃんみたいな明るい子がいたら、余計に暗さが際立っちゃうもん。
「うう……でもこのまま諦めるのも嫌だなぁ……」
と、結局うじうじし続けてしまうのが、私の悪い癖なんだよね……。
やっぱり私、犬飼君のことが好きだ。
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