第19話

女神の目の前に、幾多の異界者が召喚される。


集団転移マステレポート!」


そして、それらを全員転移させる。


それは、女神にとっての保険であった。


もし我々が負けてしまっても、彼らを転移させておけば良いと思ったからだ。


彼らの無事こそ、女神の願い。

そして、そこで女神は口を開き、疑問に思っていたことを問う。


「……あなた達は、何なの…?」


「……この国に住んでるものからしたら、あなたの様なヤツを放ってはおけないと思うけど」


「……そういうことじゃない……それだけの理由なら、こんなに感じるはずが無い」


「何を?」


「────悪意を」


「は?」


「あなた達からは、感じる。この上ない悪意を。この世の掃き溜めのような悪意を。憎悪の権化のような悪意を──」


「何を言うかと思えば世迷言か…」


エーデルガンドの一人が言う。


「貴様は、どんな理由であれ、我らがエーデルガンドの一人を殺めた。この罪から何人も逃れることは出来ないぞ」


「…何なの?この執念は……」


女神は言う。


「そうね。まぁ、あなたの本質は悪ではないのかもしれない。でもあなたが善と思ってした行動も、私からしたら悪になるかもしれない」


「?」


「まぁ、正確には私ではなく、彼の私怨なのだけれど」


アルペは遠くを見て言う。


「復讐かしらね……まぁ、悪意のある」


「……ふん」


女神は諦めた様な声を出して、瓦礫の上にへたりこんだ。


「……やっと諦めたか。阿呆め。はは」


エーデルガンドの一人がそう言って近づいて──


「馬鹿」


アルペが押しとどめる。


「あなた達感じないの?この女は諦めてなんかいないわよ」


「……こ、れは」


彼らは感じる。

この上ない、天上の殺意を。


天上の装備に身を包んだ女神は嗤う。


「きしゃァァァ!」


奇声を上げながら、エーデルガンドの一人に、天上の剣で斬りかかる。


「そんな大振りの技当たるわけが──」


空間転移スペーステレポート!!」


アルペが慌ててその一人を転移させる。


「…アルペ殿、一体何を?」


「……今の攻撃、何かやばいわ。言葉にはできないけど、恐らく神族しか使えない何か」


「何か……って」


「来るわよ!」


目を紅く光らせた女神は彼らを捉える。


「……ッッ!?」


アルペは両手で口元を押さえる。


「……アルペ殿?」


押さえた両手から血が漏れ出る。

どうやら、鼻血のようだ。


「…な」


「分か、らない……不可視の、攻撃?」


神聖騎士団の加護ブレスオブホーリーナイト!」


アルペを囲うように、一メートル四方の空間が展開される。


それは、神聖騎士団の加護ブレスオブホーリーナイト。効果は、一メートル四方の空間に対象を保護するというもの。

内からの攻撃などは一切干渉できないが、外からの攻撃も完全遮断するというもの。


かなり汎用性が高いが、一部の高レベルな魔法使いしか使えない魔法だ。


だからこそ、最高位騎士、エーデルガンド。


すぐさまアルペを保護する。


「治癒は自分で頼みます…私は、女神と剣戟してきましょう」


アルペは思った。

今の女神と一騎打ち、或いは剣戟で立ち向かうのは到底不可能、というより勝てないと。


女神が纏った装備は全て一級品。対してエーデルガンド達のもつ武器はせいぜい三級、高くて二級程度のものでしかない。


故に、波状攻撃を仕掛けても、確実に勝てるとは言い難い。


と、そんなことを思いつつ、アルペは己に治癒の魔法をかけると同時に、どんな攻撃をされたのか、探知する。


上級治癒グレーターヒール傷跡解明スカーアナライズ


アルペの出血が止まる。


「……ん?これは、女神の赤眼ゴッデスレッドアイズによる効果…?」


女神の瞳ゴッドアイズは人間種全般に対して、弱体化デバフ系の効果を発動させるというものだが、この女神の赤眼ゴッデスレッドアイズはあらゆる種族に対して効くらしい。


効果は、出血、嘔吐、一部種族は石化、魔力吸収。


などらしいが。


「……お前たち…行くぞ…ッッ!」


エーデルガンドの一人が呼びかけ、それに呼応するように、彼らは一人一人動き出す。


それぞれ役割が、まるで最初から決まっているように。


神格化ゴッズした彼らの攻撃は、全てが女神に通用する。


故に、彼らには、彼らなりの自信があるのだろう。


爆裂エクスプロージョン


女神へ爆裂魔法が炸裂し、爆風と、赤き炎が王都の中心に、竜巻のように舞う。


「…加速アクセラレータ…!」


そして、一人が加速しながらその炎の中へ行く。


武器強化ウェポンストロング


また一人は、武器を強化しながら突入する。


一人はそれを眺める。


計四人となったが、上手く連携がとれているようだ。


褒めるべき点であろうか。


だがしかし──


「──!?」


竜巻の中から二人が吹き飛ばされる。


「ぐぼはっ!?」


炎の竜巻は消え去る。


中から、なんら変わっていない、天上の鎧を纏った女神が出てくる。


「あの鎧、硬すぎんだろ…」


四人の気力は、かなり下がった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る