第29話
「
「まぁ、もちろん」
「ブラッド、あなたに頼んで申し訳ないのだけれど、そこで取ってきて欲しいものがあるの」
「…?お前は行かないのか」
「私はここでちょっと研究を続けるわ」
「そうか」
「じゃあ、取ってきて欲しいものを言うわね……、────」
「……なるほど。わかったが、報酬はあるのか?」
「貴方の治療費ってことで」
ブラッドとアルペの会話。
◇
「……ブラッドさん、行ってしまうのですね」
「……ブラッド…またな」
「あぁ」
エーデルガンドが五人衆。
まぁ、一人は欠け、一人は片腕を喪失する大損害を起こしてしまった、という罪悪感もブラッドにはあった。
「…しかし、南国フィリア、か」
「?」
「いや、俺は多くの国に知り合いや顔見知りがいるものだが、かの国には一人たりともいないのだ」
「…ふーん」
「くれぐれも気をつけてくれ…何が起こるかわからんからな」
「慢心している訳では無いが、神殺しだぞ?俺は」
「あぁ、十分に分かってはいるさ、だけど時に大きすぎる力は破滅をもたらすだろう。心配なんだよ、俺はお前が」
「……まぁ、頭には入れとくさ」
「ありがとう」
「……んで、」
ブラッドは姿勢を直して体の向きを変える。
「お前たち、何でいるんだ?」
「いえ、ブラッドさんにお礼がいいたくて…」
「……礼?そんなされるようなことしたか?」
「……貴方は、俺たちを解放してくれた、俺たち犯罪者を」
「じゃあ俺は悪だな」
「…!いや貴方は悪などでは!」
すっ、とブラッドはセイヤの口に手を当てる。
「悪役は必須だろ。悪逆を尽くすキャラクターなんてのは特にな」
「…貴方は一体…」
ブラッドは顔を緩める。
「だが、お前たちもこの国を出るんだろ?」
「はい…我々は逃亡中故に、他国へ逃げます」
「…ま、なんとか捕まるなよ」
「…えぇ、貴方のように、人を救いながら、人生観を磨くために旅をしたいと思っています。また会うことがあれば、その時は」
セイヤは会釈した。
「…他の三人は?」
「まだ怪我があるので、休んでいますが直に治ると思いますよ」
「そうか。じゃあ、俺もそろそろこの国から出るとするかなぁ」
生まれ育った故郷である。
母が妊娠し、出産し、俺が成長した町。
さらば故郷。
「他国へ行くなんて、何年ぶりだろうな」
しかも今までは帝国以外に行ったことがない。
「……ブラッドよ」
「……イリヴァ」
元国王、イリヴァ。
「…その、色々悪かったのう」
「……はぁ?色々?」
「あぁ…」
「なんだよ色々って」
「それは、お前に対する国民たちの態度は、アレはワシが」
「敢えて近づかないように指示していた、か」
「何故それを」
「そこら辺のやつを路地裏にでも連れ込めばすぐに吐くさ。それで、それって何が目的だったんだ?」
「……」
イリヴァは下の床を見て俯く。
「お主の、母が殺されたじゃろ。力ある者達に」
「もちろん、忘れるわけもないが」
「……それで、な、民に危険が及ぶかと思ったんじゃ、悪かった」
「…もういいよ、それは」
「…な、許して、くれるのか?」
「いやぁ。許さない。だがアンタの判断は正しい」
「──ワシは…ワシはお前がずっと寂しい思いをしているかと思ってな、ワシぁ、ワシぁ申し訳なくてな……お前に友達と呼べるやつも出来んくて、ワシのせいじゃと、ワシぁ」
「……確かに友人は今までで一人しかいた事ないけど、俺はこの国で暮らす分には困ったことないんだわ」
「お。おお」
「まぁそのなんだ。アンタも大変だったしな。お互い様だろ」
「ホントに、何年間も、すまんかったのぅ……」
「…」
ブラッドは少し悲しい眼差しを向けてそして、いった。
「じゃあ、俺はそろそろ南国へたとうと思う」
「…南国、フィリアか」
「……何か知っているのか?」
「知らん」
何でだよ、と喉まででかかったがそれを遮るようにイリヴァの言葉が続いた。
「じゃが、ブラッドよ。これを持っていくがよい!」
「……んぁ?なんだこりゃ。割符?」
「それはあらゆる国に入る事が許される特権割符じゃ」
「へー」
よく分からない文字が刻まれている割符である。
「ん、あぁこりゃ
「そんなのがあるのか」
「えぇ、神族以外には通用するはずよ、確か私の記憶が正しけれぶわっぷ────」
「──ブラッドちゃァァァぁあん!」
「ごばふっ!」
「アロヴァ!」
アロヴァがその豊満な胸をブラッドの顔面へ。
ブラッドの顔がアロヴァの胸に埋まる。
「ごはっ」
エーデルガンドの三人(もう一人は病室)は羨望の眼差しを向ける。
アルペは若干殺意をもった視線を向ける。
「…いゃぁん!いないでぇー……」
「…」
「…って言いたいところだけどー、貴方は言って聞く人じゃないものねー」
「…ま、まあな…」
「あー、私たちはラディア国で頑張って生きるしかないのねー」
「…ふ、何を言って?」
「……ブラッドちゃん、国民たちは皆あなたに罪悪感をもっていたのよ」
「罪悪感?」
「……そう。貴方は何もしていないのに疎外されて、そしてそれに対して国民全体が罪悪感を持っていたのよ」
それは、市民が
「だから、貴方に魔力を与えたのは贖罪のような感情もあったのかもね」
「……罪悪感、か。だがそれこそ俺に相応しいな。俺は
「……でも、私の中では
「そうかよ、まぁいいさ、感謝はしない。だが、アンタは俺の母の代わりみたいな人だった」
「…」
ブラッドは手を差し出す。
「またいつか、遊びに行くさ」
その手をアロヴァはぎゅ、と握った。
◇
ラディア国の国の門を、黒いフードを被った、若い男が歩いて出ていく。
木の割符を持ち、革のバッグを下げ、長いコートを、着ている。
そして、緑の平原へ出る。
地図を持ち。
「……ありがとう」
ラディア国へ、彼は感謝をする。
そして向かう、遥か南国へ。
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