第33話

その国は──ラディア国という、他国から王都と呼ばれるそこから遥か二千キロ近い地点にある国──


──南国フィリア。

灼熱の太陽の元に輝く国である。

比較的カラッとした気候で、湿度は非常に低い。

故に、脱水症状に陥りやすい。


そんな国で、本日冒険者登録へ来たものがあった。


南国フィリアには一応ギルドがある。

南国支部という名前であるが。


「すみません、ギルドに登録したいのですが」


一人の青年と、少し幼いだろうか、少年。それからその隣に一人の女がいる。


チームでギルドへ登録しに来たのだろう。


「はい、でらこちらの書類に御記入お願いします」


「はい」


男の格好は、簡素なものであった。つばの広い帽子に、熱に強いであろう黄色の服装であった。


女もその傍の少年も似たようなものである。


「……なるほど。えーっと、ディアさん、ラリさん、ヨーネさん、ですね」


「はい」


「では、初期登録ということで、こちらの十級バッジを付けてもらいますね」


「あ、はい」


冒険者にはランクが存在する。


「登録料、五千円を頂戴致します」


「…はい」


三人分、計壱万五千円──を支払う。


「では、何か依頼を受けますか?」


「何か入っているんですか」


「そうですねー…」


受付嬢は周りを見渡して言った。


「…見ての通り、ここフィリアのギルドは非常に人気がありません。まぁ迷宮ダンジョンのせいなんですけども…で、まぁそんなこんなで、実はあなた達は現存するギルドメンバー、あーじゃなくて、冒険者で五人目です」


「…え?三人合わせて?」


「はい」


「…じゃ、じゃあ二人しか居ないってことですか!?」


「えぇ」


青年──ディアは驚愕し、そして周りを見渡して気がつく。


二人、席に座っている男女がいると。

見ていることが気づかれたのか、二人はディアの方を向いて言う。


「よォ、新入り」


「はじめまして〜」


手を振る二人は友好的に見え、少しホッとした。


「お二人はどのくらい…?」


「九級ですね」


──。

(いや俺達と大差ねぇじゃん)


という彼の心の叫びは無視をしておく。


「…で、何か依頼が?」


「まぁそれがー、一応入ってはいるんですよ」


「…はぁ?」


「ただまぁ、そのー、なんというか、まぁこれはー」


「…?」


「いかにも、そうですね。いかにも雑用というか…」


「…勿体ぶってないで、言いなさいよ」


女──ヨーネは急かすように言う。


「雑草処理です」


「俺らは慈善愛好者ボランティアーか!?」



「もっとこう、浪漫があるものと思っていたんだけどなー」


とは言え、ディアにとってこれは予想された自体であった。


南国フィリアにおいて冒険者の数が少ないというのは知っていたことだったのだが、まさか二人とは思うまい。


──という訳で彼らは依頼主の元へと来ていた。


「…お、おじいさん」


「ん?アンタらが冒険者かいな」


灼熱用の帽子を被った老人がいた。

少し余談であるが、この国において、耐熱装備をしてない者はいない。


さりとて、依頼の話に戻ろう。


「昔は冒険者も賑わっとったもんじゃ、ワシが若い頃なんかは──」


…ディアは内心で思う。

今も昔も冒険者はこの国じゃ人気ないだろ!…と。


それには理由がある。

まず近くに国の資源の殆どを占める、天然の秘宝、惑星の産物、迷宮ダンジョンがある事が多い。


そしてそこに眠る秘宝を求め数多くの国から人が行き来する。


人の流通が激しくなれば当然その分金は入る。


という訳だ。


更に言えば、ここフィリア国の辺りには人に危害があるような魔物や動物が本当に極めて少ない。


故に、冒険者はやることが全て雑務などになってしまい、大抵慈善愛好者ボランティアーのようになってしまうのだ。


「──あぁ、まぁとにかくここにある雑草を全て処理してくれんかね」


「分かりました」



魔法を使い、雑草をかなり刈った。

魔法を使えば容易に雑草をとる事が可能だ。


「おぉ、はやいのう…じゃあ今度はここの、手入れをしてもらおうかの」


「…山場…」


少し山のようになったところだ。

そもそも都心部では草花は滅多に見かけない。がしかし、ここは郊外であるので、結構雑草もあるし、小盛の山程度は出来よう。


「わかりました」


三人は渋々承諾する。


これもまた仕事のうちかと。



山場は案外深く、中々広いようだった。


「ディア、これ一日で終わるの?」


「まぁ明日になってもいいさ。なにせ報酬金は十万だぞ」


雑草を抜くだけで十万円など、なんと楽な仕事だろう。

そうディアは思ったのだ。


「でも少し話が美味しすぎませんかね?」


少年──ラリが答える。


「まぁ、出来たような話だが、そんなに気にするな。多分大丈夫だ」


「…えぇ」


ラリは少し困惑した顔を見せる。


「本当に安ぜッ!?」


ドンッ。


足音がした。


しかし、それは人のするようなものでは無い。


そして、カサカサかさと、草をかき分けて何かが出てくる。


「避けろッッ!!」


「ッ!?」


ラリは間一髪でそれを躱す。



「…!?猛毒蠍ポイズンスコーピオン!?」


巨体。二メートルはあるであろうサソリが、三人の前へと立ちはだかる。


尾の毒で刺されたら、死ぬことは確実だろう。


それほどまでに大きい。


「…っ、しかし何故」


確かに魔物が表れるのは珍しい。がしかしこんなに都合よく出会うものだろうか。


──と、ディアは内心毒づく。

しかしそれは何ら意味が無い。


腰から出した短刀で猛毒蠍ポイズンスコーピオンを斬る。


だが当然、その硬い装甲に弾かれる。


このさそりの特筆すべき点はやはり、その装甲、表皮の硬さにある。


「…ぐっ、やはり俺の短刀ではキズ一つつけることが出来ん…!一旦撤退…っわぉ!?」


ディアは間一髪で、その尾の毒刺しを躱す。


爆速である。

確実に息の根を止めに来た一撃だ。

正直運で躱せたようなものだ。

次からは分からない。


「…魔法はきかんしな…逃げるぞ…!」


そうして三人はかけ出す。


「…っひ!ディアさん、追ってきてますよ!」


「振り…っ、向くなッッ!」


「でもぉっ!?追いつかれッッ!?」


そうして、追いつかれた三人は──


──刺される事無く無視され蠍は走っていく。


「は?」


「後続が来ました!!」


「…っお!?」


大量の猛毒蠍ポイズンスコーピオンだ。


しかしそれらもまた彼らを無視しはしっていく。


「…………?」


何がおこっているのか、現場で理解出来ている者はいなかった。


しかしあの逃走はまるで、何かに怯えて逃げているようでもあった。


…そうディアは感じた。


「…」


そして、その奥から、スタスタと一人の男が悠々と歩いてきた。


「…」


じっ、とディアを見て、それからまた前を向き直して歩き出した。


「……?危険ですから、あまりこの森には、いない、方が」


「…」


男は無言で歩き去っていく。


黒いフードそれから耐熱用の服。

少し大きめの鞄。


恐らく顔は若い。


「誰だろうか」


しかし、ディアにはその男がきっと、猛毒蠍ポイズンスコーピオンを怯えさえ逃げさせた張本人であると、何となく分かった。

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