第32話
少し刺激も足りないことだし、朝の目覚ましにしては良いだろう。
そう思い、ブラッドは馬車へと滑空する。
そして降り立つ。
馬車の間へ。
どうやらブラッドが来た地点で既に盗賊は馬車を襲っていたらしい。
襲われている馬車から何やら声がする。
「…おい!はな…ッせ!」
「嫌だね、おい、頼む」
「あいよ」
「ふむ、お前ら何をしてるんだ?」
ブラッドは気が抜けたような声でそう言う。
「……は?」
「……ん?」
「…何だその顔は」
「……誰…だ?」
「…俺だ」
「…ふざけ…ッ」
「アンタ、早くやるよ、もう時間もない」
ブラッドは無視される。
恐らく盗賊は二人だけのようだ。なんと少人数なのか。
一方相対する方は商人が一人と──あとは
(……なるほど)
馬車の中を見ればそれはひと目でわかった。
奴隷馬車。
他種族(人も例外ではない)の奴隷がつまれた馬車。あらゆる地へ旅をし、売られ、売り残りはある場所で処理されるという闇馬車。
「…まぁ、奴隷制度を許す国も多いからな。それで、どうしてアンタらはその奴隷たちを、
「アンタ、第三者の癖に口出しするなよ…!それ以上何か言ったらただじゃおかないよ」
「…んー。しかし、アンタら盗賊だろ?」
「あぁ!?盗賊だぁ!?」
怒った男は殴りかかってくる。
それを軽々とブラッドは避けた。そこらのチンピラ程度の殴りは、わざわざ拳を見る必要も無かった。
「盗賊だろぉ?」
「そ、そうだぁっ!お前らは盗賊ッ!」
商人が血走った目でブラッドに加勢する。
「お前もお前だがな。とにかく盗みはやめろよ。犯罪なんだから……──はははっ」
ブラッドは気だるそうに笑った。
「盗み?アタシたちはこの子達を救うために、解放してやってんのさ」
誇らしげに胸をはる女盗賊。
「……救う?盗みだろうが」
「はぁ?」
「少なくとも、奴隷になるってことはそれなりの理由があったって訳だろ。それがどんな理由かは知らないが奴隷にされるという理由が。まぁどんな理由だろうとどうでも良いんだがな」
「…」
「つまり、コイツらはそれ相応の罰を受けなければならない。罪と罰だよ。コイツらの正しく生きる道はこのまま売られることだ。第一お前たちはここに居る、えー、十くらいの奴隷、全員を育てられる自信があるのか、いやその責任を背負うことが出来るのか?」
「何を言って」
「お前たちにとって慈善活動かもしれないそれは、つまりただの人間の窃盗にすぎない。つまりは誘拐と何ら変わりはないんだよ。第一国が奴隷を認めているのにも関わらず誘拐は認めてないだろーが。その地点で分かるだろ」
「……アンタは、知らないんだ」
「…んぁ?」
「私達ももともと、奴隷だったんだッ」
「はぁ、そうですか」
「…それで、私達は救って、助けて貰えたんだ…」
「はぁ、そか」
「…その時の喜びは計り知れない──私はその感動を──」
「おめでたい奴らだな、本当に。第一よぉ」
ブラッドは奴隷のいる牢の布幕をめくる。
そして、一人の少年の瞳を指さして言った。
「コイツらに生きようという意思を感じられない」
死んだ目。
であった。
「だが私達は──」
「それにお前らを救ったと言うやつも、多分相当酷い目にあったんだろうな」
「…?」
「殆どの場合、正当な理由がない場合は、奴隷は奪っちゃいけない。そりゃ違法ってやつになる。でその違法の刑罰が案外重い。もしバレればソッコーで無期懲役だって有り得る話だ」
「そ、んな」
「それにお前もだ、商人野郎」
「…え?」
「まずこんなところで奴隷馬車を走らせるな。奴隷馬車は国によっては非合法。ご法度なんだから、もう少し頭回せよ」
「あ、え、あ」
「結局お前たちは俺から見ればどちらも悪でしかない。どちらが善でどちらかが悪?或いは両方善?馬鹿げているな。両方悪だろうが」
「…悪」
「そう、悪でしかない。お前たちは悪でしかない」
そう言ってブラッドは静かに魔法をかける。
「
そして、その場にいるものはみなすやすやと眠った。
──一匹を覗いて。
「…っ…っ」
「強いな」
俯き、睡眠しかけてはいるが、相当耐性が高い。
これは恐らく人ではない。
亜人だ。
亜人の奴隷だ。
「おい、餓鬼。目を瞑れ」
す、とブラッドが手で亜人の目を隠す。
「
◇
「……んぁ、ぁぁああ〜っ、よく寝た」
「……んぉ…え、あ」
二人は馬車を襲った事を思い出し、また変な男がやってきたのも思い出した。
「──そうだ、奴隷…ッ!?」
女盗賊は慌てて奴隷馬車を確認するが。
「いな、い?」
「そうだ」
「ひゃっ!?」
そこには絶望した商人がいた。
「もう、おしまいだ。奴隷は私が目を覚ました時から居なくなっていた。跡形もなくな」
「…そんな」
一体何が起こったのか、その場の誰にも理解は出来なかった。
──!
「あ、あの男か!」
少なくとも、あの男が何かをしたのだけは理解できた。
それ以外は何ら分からなかった。
◇
「つまらんな」
馬車に行けば何か新しい出会いがあるかと思えば、どちらも乗っているのは屑でしかなかった。
「まぁ人など所詮はそんなものか」
そうしてブラッドはまた歩み続ける。
段々と、気候が変わりつつあった。
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