第3話
「よってらっしゃいみてらっしゃい!!」
「だり」
ブラッドは特にやることもなく、街に出た。
本当に。
何も、することがない。故に、ブラッドは街へ出ていたのだが。
「何か面白いものがないか、探しにきたものの」
この程度か。と、内心毒づく。
やはりこの街は発展しない。
せいぜい店が立ち並ぶ程度。
変わらない。
ーというのも。
彼はこの街出身だからだ。
ブラッド。
本名ブラッド•リ・ディアベル。(まぁ正体がバレるので本名を知るものは本当に僅かだが)
かつて、ラディア国最強と謳われた、姫騎士アラエル。
の、唯一無二の子供。
男。
年は十代後半から二十代前半に見える。
見た目の印象は若い好青年。
顔はそれなりに良い。
とはいえあたりの人間の気を引く程ではないが。
ブラッドは一人、街の道を歩く。
道は大して綺麗ではないが、汚くもない。
「…」
この街の者とは、ブラッドは顔見知りだ。
しかし、決して、彼に話しかけるものはいない。
敢えてそうする。
そしてブラッドも理解している。
「…ぅぉおおおおおお!」
男達の大声、叫び声、雄叫びが、小道の脇から聞こえてくる。
「…なんだ?」
ブラッドはそこへ足を進めた。
「…さぁ!次に俺とやるやつはいねぇか!」
大きな樽の上に布が敷かれている。
そしてそこでは一人の男を囲うようにかなりの人数の男女(とはいえ殆ど男だが)がいた。
二人の男が椅子に座っている。
そして、
「いくらだ?」
「5万だ!」
手を握り、構える。
「レディー…」
そして、審判の者が、合図する。
「ファイッ!!」
ー腕相撲。
世間一般ではそう呼ばれるものだ。
「…ゔぬぬぬ!」
「ふん…!」
そして、大男が勝つ。
みない顔だな。
この街に来たことがないのか。
と、そうブラッドは思う。
それは、至極自然な考えであった。
ラディア国、その中でもっとも端にある街。
国外に行くもの、国内に来るものが最も行き来するところ。
街の名はディーア。
特にこれといった特徴もない、なんでもない街である。
本当に、何もない。
「…アタシがいくよ」
「ほぅ、嬢ちゃんか…」
「舐めんじゃないわよ…」
「いくらだ?」
どうやら金を賭けているらしい、と、そうブラッドは思った。
「…1万で」
「やろうか!」
腕相撲が始まる。
あの男は確かに腕力はあるが…
「…ふんんんん」
「…んんんん!」
技量では女のほうが遥かに上回っているようにブラッドは感じた。
実際そうなのだが。
とはいえ、腕相撲というものは結局のところパワー勝負。
力があるものが勝つ。
「…!?ぅおおおおお!」
しかし、状況はそうではなく、
「お、おしてる!?おしてるのか!」
女のほうが押している状況。
「すげぇ!すげぇよ!」
「はぁぁぁあ!」
女は腕を押し込んでいる。
「…ふん」
が、しかし。
「っ、ぁ、がっ!」
途端に男の力が上がったのか、女は一気に押し返された。
そして、勝敗がつく。
「…アタシの負けだよ」
「おぅ、強いぜ、アンタ」
互いを認め合う。
ブラッドはそれを見て得も言われぬ気持ちになった。
「…ほら、他はいねぇか!他は!」
「な、なら俺が…」
「おい」
ブラッドが話しかける。
「あ?」
そうすると、途端に。
静寂が訪れる。
皆が下を向き、俯くようになる。
「今、いくら稼いでいる?」
「22万ゼニーだ」
「そうか。ならそれを賭けよう」
「あ?アンタがやるのか?」
「あぁ」
確かにブラッドの体格は悪くはない。しかし、それにしても体の大きさがあまりにも違いすぎる。
それが男女なら仕方はないが、男同士だ。バカにされかねない。
「ワッハッハ…!ハンデをやろうか?」
「いらないな。ルールは?」
ブラッドは淡々と話す。薄暗い路地の光が、ブラッドを照らす。
夕方から夜にかけての時間帯。
「…ルールは簡単。この樽に腕を先につけたほうが負け。腕を離したりしても負け。腕の軸を動かしても負け。体を使うのは有り。賭け金は最低1万から。こんなところだ」
「そうか。ならやろう」
ブラッドは小銭稼ぎの感覚で、それを行う。
「一つ忠告しとくがアンタ、骨を折ってもしらねぇからな?」
「あぁ」
「俺は元傭兵…ランクはBだった…それでもやるのか?22万ゼニーもかけて?」
「あぁ」
そこで、大男はニッコリ笑って。
「ー馬鹿が」
ギュッとブラッドの手を握りー
「ファイッ!!」
合図とともに樽へ叩きつけるようにー…
「…!?」
「どうした?」
「…!ゔ」
大男は感じた。おかしなことに、ミリ単位でさえ、己の腕が動く気がしなかった。
辺りの観客は、黙っている。
しかし、それに驚く者は誰一人いなかった。
「ふん」
ブラッドは、めき、と樽に大男の腕を叩きつけて、22万ゼニーを奪い取る。
「アンタ、ここらへんの人じゃないだろ」
ブラッドが、腕を押さえる大男に告げる。
「ここらへんののやつなら、まず俺とやることなんて無いからな」
そうして、ブラッドは少し息を吸って、大声を出した。
「本当に、間抜けだな、お前たちは。馬鹿が。阿呆共が。擁護できない。何も分かっていない、昔から」
「…?」
大男はぽかんとしている。
「直にこの国も死ぬだろう。その時がくれば、お前たちも分かる」
それは、ブラッドの
そして、彼は街を出る。
今の拠点へと向かう。
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