第2話

ダークエルフと言えば、どんなイメージだろうか。

エルフが闇落ちした姿。なるほど、あながち間違ってはいない。


世間一般のイメージとしては、褐色耳長族ダークエルフと、褐色がダークでダークエルフと。

そういうイメージがあるのかもしれない。


だがしかし、違う。


ダークエルフを正しく記すなら、反耳長族ダークエルフ、だ。


アンチの力を持つほどの、激情にかられた、負の感情をもつエルフを総称し、反耳長族ダークエルフ


肌の色や見た目はそこまで重要ではない。


エルフを決める最も決定的な特徴は、エルフの知能と、その魔術技術。


この二つである。


「…で、アタシに何かよう?」


まぁあとは、愛想が悪いやつが多いってとこか。


愛想も何も…捨ててしまったやつも多いが。



「よし、私がゆこう!」


勢いよく息づいたのは、一人の騎士であった。

彼は、騎士の実力そのものはあまりなかったが、その人柄の良さから、騎士道精神が優秀だ、とされ、抜擢されている。


尤も、だからといって重大な戦場などに出陣させられることはなく、基本は街のお手伝い程度をしている。


その日、近郊の森、デスベルの森へと行くことになった騎士がいたが、その代わりに私がいこうと、彼は意気込んだ。


「…で、デスベルの森へは薬草採集へ行くのだろう!任せろ、私はそれなりに薬草がわかるからな」


「あ、ありがとう」


「うむ、では行ってくる」


デスベルの森。


由来はそこにいる熊の名前から来ている。


巨獣デスベル。


その凶爪、牙は容易く人の命を奪う。



「さて、着いたぞ」


デスベルの森の前。

その奥は不気味に暗くなっている。


とはいえ、入ってから多少の範囲は人の手が入っているので大丈夫…なはずだが。


自然に絶対はない。


「…で、では」


恐る恐る、騎士は森へ入っていった。


「…中は案外明るいのか…」


外から見ると暗かったが、中はそこまで暗くないようだ。


「…お、あったあった。…グリーンリーフ、エネモアの実…お!これは…」


騎士は薬草等の採集へ夢中になる。


「…ふぅ、少し奥まできてしまったか…」


森のかなり奥まで入ってしまった騎士は、そろそろ戻ろうと思った。


が、気づく。


「…こ、これは」


近場にあった木は、(採集へ夢中で気づかなかったが)熊の爪痕でいっぱいだった。


「やばいやばい…」


そくさくと、帰る準備をしていると…


聞こえる。


何か。


無視。

無視だ。


どす黒い、腹に響く嫌な音だと、そう思った。


騎士は、吐き気と恐怖を感じながら、震える手を落ち着かせながら、ゆっくりと踵を返す。


「グルルルルルル…!」


「あは、ははは」


でかい。


というのが彼の第一印象であった。


壁のようにも感じる。


嫌だなぁ、と。


しかし、その手についた大きな爪は、鋭く伸びて、己の方へ突き出され、


「ガォぅうゔ!」


「ッッ!!!」


死んだとおもった。


そして、事実彼は死んでいた。


しかし、熊によってではない。


熊もまた死んでいたのだ。


そのときに。



「馬鹿な人間ねぇ…こんな森の奥に来るなんて」


「あぁ…そうだな」


降り立つのは、二つの影。

一人は人間ヒューマン。一人は反耳長族ダークエルフ


殺害の決め手は、魔法。


反耳長族ダークエルフは非常に魔法に長けている。


使ったのは、怨嗟の影グラッジシャドウ


その威力は絶大で、この森を支配しているデスベル程度なら容易に殺せる。


影が伸びて、さす。


それだけ。


「一緒に殺してしまったのだが…それで良かったのか?」


「ん?うん…そーねー」


反耳長族ダークエルフは歩きだし始め、もうその死体のことはどうでもよさそうだった。


「アタシは人間種ヒューマンが殺せればそれでいいわ」


「そうか…」


反耳長族ダークエルフが最も感情を表したくない時。


それは、興味をなさそうにする時だ。


「なんだ、知り合いだったのか」


「…ふん」


「ならば蘇生リザレクションをすればいい」


「アンタがやってれば!」


「はぁ」


フードをかぶった反耳長族ダークエルフは走り去っていった。


「全く……ん?…こいつは…」


フードをかぶった人間種ヒューマンの男は驚いた。


その死体を見て。


「なんだ、エーデルガンドじゃないか」


「お、バレた?」


その死体はむくりと立ち上がった。


最高位騎士、エーデルガンド。


その一人、デレウス。


「全く、あのダークエルフを欺くのは大変だなぁ…最上位の変装魔法をしていたのにバレるとこだったよ」


「ふ…というかあんた、こんなところで何しているんだ?」


「…ん?あぁ、最近国が忙しくてね…何か大がかりなことをするらしいんだが…」


「そうか。ラディアも戦争の準備にとりかかるのか」


「…いや、そうではないらしいが」


「ふぅん」


「ま、また街に来ていろいろ見てまわればいいんじゃないか?」


「確かに最近は行ってないしな」


「お前も分かっているとは思うが、この森は直に死ぬ。その時また闇が出るだろうな」


「あぁ、そうだろう」


「気をつけろよ、ブラッド。ブラッド・リ・ディアベル」


「あぁ、デレウス=ノアレス」


そうして、二人は、森に溶ける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る