悪逆の魔法使い

@konbu2020

異界召喚編

第1話

世界は腐っている。

…いや。正確に記すなら人が腐っている、だろうか。


少なくとも、俺が見てきた人間は皆、腐っていたが。


麻薬密売人。


陵辱癖のある男。


拷問好きな女。


殺人鬼。


窃盗犯。


反魔道士。


反騎士。


強姦魔。


それら、犯罪者は、みな俺の知り合いだ。


いや、犯罪自慢をしている訳ではない。


犯罪など自慢したところで、何も。


何も自慢になどなりはしない。


変に悪に足を踏み入れて、それを格好いいとか思っているのなら。


本当に…本当にそれは…


「呆れた。アンタそんなところに隠れていたんだ」


おっと、追手が来たようだ。



さて、ではもうさよならをしないとな。



「ふふふふふふ」


喉の奥から、唸るように。

心の怨嗟を、どろりどろり、と。


乾いた、笑い。


では、地獄の果まで。


「さようなら」













朝日が王都を覆った。

明るい日は、大きな宮殿を照らし、下にある小さな街街を照らしていた。


恵みの日。


王都の名は、ラディア。


ラディア国。


ラディア国は過去二千年の歴史がある、由緒ある国だ。


宮殿内。


「ふむ、して、姫騎士はどこにおるかの?」


国王、ラーディール•イリヴァ。


「さぁ、わたくしも見ていませんわ」


姫、ラーディール•アロヴァ。


「…ふむ、彼女がおらんとのう」


彼女、とは、この国随一の騎士のことである。


かの大戦で大活躍した、英雄的存在だ。


その戦力は、他国としばしば争うラディア国にとっては、非常に大きなものであった。


ラディア国では、過去最強。

騎士戦においては、常に優勝。


姫騎士、アラエル•リ•ディアベル。


その戦力は、他国からは化け物と称され、魔物間では人の魔王と呼ばれる程であった。


「彼女には、自由を与えておる。あの戦力じゃし、いつでもここに駆けつけられるということを思ってな…しかし…」


ここ最近、国王はアラエルの姿を見ていなかった。


それは、おかしな事態であった。


何故なら、彼女は、どんな大戦の最中でも、必ず一月に一度は国王のもとへ戻ってきていたのだが。


「むむぅ…」


「…帰って、きませんわね…」


姫、アロヴァとも、姫騎士アラエルは仲が良かった。


女性同士だから気があったのだろうか。


兎にも角にも、アロヴァもアラエルのことが心配だった。


「とにかく、わしらの兵士を以てして…」


そこで、急ぎの兵士が、門扉を開けて、国王の部屋へ、入ってきた。


それは、緊急、非常事態であった。


何故ならそんなことは、本来死刑になってもおかしくはないこと。


つまり、の、内容ということだ。


「…なんじゃ」


「あ、アラエル様が…!あの…アラエル様が…!」




それは、無残な姿であった。


残虐極まりない。


服は破れ、殆どない。

特に、女性としての性的部分。


そこが重点的に引きちぎられている。


体は殴打されて跡が残っている。が、殆どないようなものだ。


この国で彼女に傷をつけることが出来る人間はそうそういない。


そして、何より、その目が、


「生気が…ない」


死んでいる訳ではない。


しかし、目は死んでいた。





そこは。


スラム街の真ん中であった。





姫騎士アラエルは、その日非番であった。


「ふーむ」


この国は、貧富の差が他国よりも小さい。

とはいえ、もちろんスラム街が存在する。とても小さいが。


「そうだ」


アラエルは、そこへ行き、スラム街で無償の食料配給でもしようと考えた。


国王からは自由を与えられている。


つまり、この国で彼女は最も自由なのだ。


「…よしよし…と」


食料を袋へ詰め、アラエルは彼女はスラム街へと足を進めた。


「…ん、ん」


歩を進め、スラム街にて。

最も人口が多い場所へ来る。


「みなさんー、食料配給ですよー!」


アラエルは伝える。


そうして、その声から、縋るようにぞろぞろと人が集まってくる。


そうして、温かいスープなどを配給する。


「…ありがとう…ありがとう嬢ちゃん…」


涙を流し、崇拝する者さえいた。


少なくとも、そこにいた者はみな彼女のことをよく思った。


そうして、気付けば。


夜になっていた。



このとき、それは起こった。


まず、不運なことが一つ。


彼女は見た目が非常に麗しく、美人であり、スタイルも良かったため、襲われやすかった。


しかし、普通スラム街の人々でもそんなことを白昼堂々はしない。


夜であり、視界が暗くどのような人か認識がつけづらかった。


これが大きいだろう。


二つ目に、アラエルは非常に優しかった。

その優しさは、度を過ぎていた。


戦場においては不敗。

たしかに敵に対しては強いかもしれない。


しかし、自国の民には優しくなる。それがアラエル。



その夜。


暗黒の中、彼女は攫われ、そして…



「…子を身ごもった!?」


国王は驚きを隠すとか、隠さないとか、そういうことではなくて、純粋に、驚いた。


アラエルはそれにより、誰ともわからぬ者の子を授かった。


中絶という手もあるだろう。


だがしかし、

アラエル自身がそれを拒んだ。


「この子には…なんの罪もない…だから…せめて」


幸せに生きて、と。


国王は、アラエルを退職させた。


それは、彼女を気遣ったからかもしれない。


これから一人で子を育てていかなければいけない。


彼女は隠居し、遥か遠くへ住むだろう。


それは茨の道だろうが、しかし。


「ラディア最強の騎士ならば…」


精神的ダメージは大きくても、大丈夫だろう、と。


そうして、子供は生まれた。


男の子だった。


名前を、つけた。


「…私の、苗字だと…名前は血筋がバレてしまうから…そうね…全く変えてしまいましょう…」


姫騎士アラエルは、その子に名前をつけた。


「ブラッド…ブラッドなんていいわね…」


そうして、ここに、赤子ブラッドが誕生した。


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