第35話

「……」


ブラッドは目が覚めた。

気づけば朝だった。相当疲れていたのだろう。


ブラッドは全身の疲れが吹き飛んだ気がした。


「……!」


ぐっ、と背中を伸ばすと骨がバキバキと鳴った。


「っおお」


それとほぼ同時にぐぅと腹が鳴る。


「何か、食い物がほしいな」


そう言えばこのホテルはエスニック風料理を出してくれる店があったはずだ、とブラッドは思い出し、金をもってその店へ行く。



ブラッドは朝から重いものを食べる気分になるタイプではない。


と言うよりも、何故か彼は今ものすごく腹が空いていた。


おそらく、疲労回復に栄養を多く使ったのだろう。


「…ふむ」


店の中へ入る。


「いらっしゃいませー」


「…」


どっ、と席に着く。


朝から暑いかと思ったが、そこまでの暑さでは無かった。

昼が有り得ないほど暑いだけのようである。


「この、スパイシーミンチをくれ」


「かしこまりました」


数刻後。

焼きたてだろうか、パラパラとした香辛料をふんだんに使ってあるであろう、ひき肉を炒めたものと、それから──


「──パン?」


「朝のサービスで御座います」


「有難くうけとるぜ」


──この街は南国であり、乾燥地帯であるので、水の入手はそれなりに厳しい。

はずだ。

しかし、その水の難を解決しているものがある。

それは迷宮ダンジョンだ。


現時点で迷宮ダンジョンについて明かされているのは、第五層まで。

それから下は何ら情報がないが、そこまでならそれなりに情報がある。


そして、水の難を解決したのは第三層、姫の間。


そこには魚魔などの水生生物(魔物)がいるが、そこから水をくんでいるというわけだ。


現状情報が公開されている第五層まではどうやら誰でも簡単に行けるらしく、故にこの国で水に困る人は居ないんだとか。


「しかし、不思議だな」


「…?」


「なんで迷宮ダンジョンの水はろ過もせずそのまま飲めるんだ?」


「それは、たまたまですね」


店員がブラッドの疑問に答える。


「たまたま?」


「えぇ。なんでも、本当に運よく質の良い水が手に入ったらしいですよ」


まるで、オアシスのようなものである。


「都合のいい話だな」


「えぇ。その通りかと。でも少しは都合がよくても、罰は当たりませんよ」


「…」


ブラッドは金だけ払い無言で店を出る。



「…」


ぐっ、ぐっ、と身体を伸ばし、今から迷宮ダンジョンへ行くことを決意する。


別に準備するものはない。なぜなら情報がないからだ。


「あ、ブラッドさん」


「…ん?お前は確か──ディア?だったか」


「はい。ブラッドさん!」


「…あ?」


「一緒に迷宮ダンジョンへ行きましょう!」


「は?」



話を聞く限りではあるが、どうやらギルドの依頼で迷宮ダンジョン調査の依頼が来たらしい。


だが。しかし。


「まず、俺を誘う理由が分からんな。それに、ギルドがそんな危険な依頼をするか?」


「…はい。ギルド特別依頼です。第六層以降の調査、及び、情報の収集。報酬は──」


「そのタイプの報酬はどうせ、馬鹿みたいな大金か、或いはその情報によって値段を変えるか、だろ」


「後者ですね」


「はぁ。なんで俺を誘う?なんで俺なんだ?」


「強いと、思ったからです」


「報酬は?」


「二百万円はどうですか?」


「うーん、安いな。お前たちがギルドから得た報酬、その半分は貰おう」


「わかりました!」


(…即答かよ)


ブラッドは少し驚く。

もう少し躊躇うものかと思ったが。


(──人とは金に執着するものではなかったのか。)


「じゃあ、お前ら持ち物見せてくれ。それで、何が出来て何が出来ないのか教えろ。そしたら、協力してやらんでもない」


ブラッドからしても、迷宮ダンジョンに大人数で行くというのはデメリットではない。むしろメリットである。


もともと行こうとしていたのだが。


「…何か都合が良くないか」


「……?何がですか?」


「…まぁ、いいか」



「……もしかして、ディア、お前以外は…」


「あぁ、はい。喋っている言語は別ですよ」


「……は?じゃあどうやって喋ってるんだ?」


「あぁ。このアイテムです」


────!


「あらゆる言語が話せるようになる腕輪だと?」


「はい。祖父から譲り受けたんですよ」


「…」


驚愕でしか無かった。

まさか、そのような物があるとは。


「…まぁいい、俺も二人と喋れるようにしてくる」


「してくる、って…」


「じゃないと、作戦もねれないだろ。お互いの役割も分からないのに」


「はぁ」


ディアは、自分が言うからいいのに、と思った。


しかし、ブラッドとしてはそうはいかない。


ササっ、と物陰に隠れ即座に魔法を発動させる。


召喚サモン自己精霊オウンエレメント


光の魔法陣の中から小さな羽のついた幼女が飛びながら現れる。


「ひゃーん!現れたよ〜!ひっさしぶりですねぇ〜!

ご主人様ァ〜」


「…言語化の魔法を掛けてくれ」


「はぁい。愛想ないね〜」


「…お前はいつも気分が高揚しすぎだ」


──自己精霊オウンエレメント。自分で捕獲した精霊エレメントを自己のものにし、そして召喚出来るようにするもの。


一人につき一体が限界。ブラッドはたまたまデスベルの森で発見した。

通常は精霊国の近くでしか現れないが、時たま森などにいることがある。


ブラッドの召喚した精霊、名をツァリと言うが、彼女は戦闘ではなく、補助特化の魔法を使う。


閑話休題。


ツァリはブラッドのため姿を変え首飾りとなる。


『これをかければ言語化がかかりますよ〜』


首飾りが声を発す。


「…」


ブラッドは無言で首飾りをかける。


『ひゃーん。ブラッド様の生首〜』


「流石に黙ってくれないか」


『……』


「…まぁ、後で精霊ミルクあげるから」


『……!』


猫にマタタビ、精霊に精霊ミルク。

ツァリは毎回精霊ミルクをキメる・・・度に顔が蕩ける。


「とにかく、今からは人前に出るから、頼む」


ツァリが出られる時間はほぼ無限。ブラッドの魔力が尽きない限りは居続ける。


『かしこまりました。ではブラッド様の心の中に語りかけ続けますねー!』


「…ッチ、勝手にしてくれ」


ブラッドは歩いて、ディアたち三人の前へ出る。


「じゃあ、互いの能力について話すか」

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悪逆の魔法使い @konbu2020

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