第21話

「……ッッ!?」


女神は驚きを隠せない。

まさか、天上の鎧さえも破られるとは。


進退窮まる。


だが、しかし。


すっ、と天上の剣を構える。


剣の長さは、二メートル近くあるだろうか。

大剣である。


だが、女神の体高も三メートル近くあるため、相対的に、普通の剣のように見える。


だが、大剣に違いはなかった。


天上の剣。


あまねくものを斬ることができるそれは、エーデルガンド四人をもってしても止められるか、どうか。


「ふん!」


構えた大剣を大振りする女神。


「そんな大振り当たるわけが──」


アルペがそれを躱そうとして──


「──!?」


アルペは違和感を感じ、咄嗟に距離をとる。


何か、そう。

あの剣は何かがおかしい。


と、アルペは再び思う。


「…よく、当たらないわねぇ」


──タネを明かしてしまえば、その剣は、天上の剣は、ある能力を保持しているから、アルペやエーデルガンドに当たる可能性が高いのだ。


その効能は、時空を斬ること。


過去は斬れないが、未来は斬ることができる。


未来切断。


近づくことが、高難易度。


「……」


アルペは警戒の色を強める。

能力が分からないためだ。


だが、見極めている時間もない。

しかし、距離さえとっていれば大丈夫だ、とそれだけは分かっている。


怨嗟の鎖グラッジチェイン


赤黒い鎖が異空間から突然飛び出る。

原理を説明すれば、周りの魔素を吸収し、魔力へと変換させ、魔力を物質化させ、それを鎖状にして、怨嗟の効能を他の魔法で生成させ、付与させる。

という工程のもとなりたっているのだが。


アルペはそれを息を吸うように出来る。


魔法詠唱速度も非常に速い。


──そして、怨嗟の鎖は女神へとまとわりつく。


「エーデルガンドッ!」


私が押さえている間に行け、とでも言わんばかりの声でエーデルガンドへと声をかける。


「……ッち!」


怨嗟の鎖グラッジチェインは、神聖の高いものには非常に有効的で、神聖を吸収し、闇を与えるという、負の力が強い魔法だ。


まぁ、怨嗟系統の魔法は、アルペのような、反耳長族ダークエルフや、闇に近い性質を持つ種族が会得しやすい。


別に他種族でも、会得できない訳では無いが、非常に難易度が高い。


種族ごとに、習得、会得しやすい魔法は決まっている。


──閑話休題。


女神はその鎖をほどこうと必死に足掻くが、足掻けば足掻くほど、神聖が吸収され、闇を体内へ入れられる。


「……う、ぐっ!?」


それが有効打となる。

女神は血管を浮かび上がらせ、冷や汗をかく。

女神の肉体へと激痛が奔る。


「お、らぁっ!」


エーデルガンドの一人が、思い切り女神の顔面を殴る。


頭部部分、兜の場所は、すでに裸。ダメージは直接入る。


「ごあ、っ!?」


黄金の血が、女神の口から飛び出る。


「おらぁっ!」


幾度も殴る。

その度に女神の美しかった顔は腫れあがり、金髪は乱れ、そして、女神の歯が何処へ飛ぶ。


涎を少し垂らし、口から血が漏れ出る。


何故、エーデルガンドでもここまでのダメージを与えられるのか。


それは女神の神聖による。

神聖のオーラは常に神族の能力を向上させる。だが、怨嗟の鎖は女神の神聖を吸収し、弱体化さえさせる闇を注入した。


故に、ただのパンチでさえ有効打。


「どけ、俺が斬る!」


エーデルガンドの一人が飛び出てくる。

殴っていた奴と交代するように。


「──はあっ!」


その一人の剣は、女神の脳天へ落ちていき──


────爆音。

──エーデルガンドの一人、剣を振るったものの片腕が宙を舞う。


「──は?」


「ゆる、さない!!」


髪を反りあげた女神が、激高しながら鎖をちぎった。


「…?」


黄金のオーラを纏う女神、治神ヒーラ

それは、彼女にとっての切り札であった。


治神ヒーラというほどであるから、治癒には非常に長けている。


だが、己を癒し続けていても、いずれ限界がくるのは目に見えて分かる。


だからこそ、女神は短期決戦にもちこもうと、(あまり使いたくはなかったが)奥義を発動させた。


それは、治癒の神に与えられた、特権。


三分だけではあるが、己の限界を幾億も越えた力を得られる。


治神完全時間パーフェクトヒールタイム


その再生力は異常で、攻撃されると同時に再生するので、まるで攻撃されていないように見える。


また、あらゆる能力が爆発的に上昇する。


こと、この時間に限っては、彼女の時間だ。


アルペは魔法面で決して敵わないし、エーデルガンドは武術や剣術で決して敵わない。


それもそうだ。何故ならこれは治神ヒーラにのこされた切り札だったのだから。


時間は三分。終われば一定時間神聖オーラは完全消滅する。


そうなれば一巻の終わり。


だからこそ、この三分で全員を殺さねばならない。


天上の剣で一人の腕は切り落とした。


戦力外だろう。


エーデルガンド三人。あとは反耳長族ダークエルフが一人。



あと、四人。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る