第20話
「私が、壊す」
「…え?」
エーデルガンドの四人は、アルペの発言に驚愕を隠せない。
エーデルガンドはあの鎧の手応えからして、壊すのは到底不可能だと思えた。
それよりも──
「あの鎧ではなく、女神本体に攻撃を与えては?」
そう。神族は善の値が極端に強い特徴がある。
故に、悪に属する攻撃を与えれば有効打にはなるはずだが。
「恐らく、まぁこれは私の直感でしかないのだけれど、悪、闇の攻撃でも有効打にはならない気がする」
「そうなのか?」
エーデルガンドは魔法もかなり高レベルで使えるが、アルペのように特化してはいない。
そもそも、アルペとエーデルガンドでは圧倒的にアルペの方が強い。
故に、アルペの言葉には強さが宿る。それだけで相手の信用に足るような。
「……でも、どうやって壊すんだよ、あれ。」
不壊の鎧という、ドワーフ間に伝わる有名な鎧がある。
エーデルガンドの一人、デレウスは昔、ドワーフの里へ行き、一度その鎧を触らせて、斬らせてもらったことがある。
彼らには、絶対に壊れないという自信があったのだろう。
それはそうで、デレウスの攻撃では全く傷つけることは叶わなかったのだが。
デレウスはその時の感触と今の感触を感じ比べる。
デレウスは思った。
ドワーフの不壊の鎧は、おそらく、永続的に傷つければなんとかなりそうな気がする。
だが、女神の纏う、天上の鎧、あれは……──
──何ら、壊せる未来がみえないのだ。
覆うのは、若干の絶望感。
「無理だ、ろ」
「…?デレウス…?」
「あんなん、無理、だろ。」
「……」
他のエーデルガンドは何も言わない。
何故なら目の前でその強さを見せつけられ、何より実感しているからだ。
──女神は強い。
「…それは、そう…かも、しれないが」
「無理だろッッ!あんなの」
デレウスは、少し怖くなって、叫び気味に、怒鳴った。
「あぁ、そう。」
それを、容易く受け流すのは、麗しい見た目を持つ、
彼女は羽織っていた黒きローブを脱ぎ捨てる。
「ま、見てなさい。魔法使いは基本後衛だけれどね、前衛もできないことないのよ?」
そう言って、アルペは己自身に
身体能力向上。
魔法能力向上。
魔法高速化。
生命力増強。
魔力増強。
魔素吸収。
精神強化。
神聖耐性。
闇化。
アルペの身体が黒い闇に染まる。
そして、──
「──ふ」
一歩踏み出す。
そして、一歩踏み出す。
だがそれは、何人も捉えることの出来ない、神速の移動。
「──ん」
そして、気づけば女神の目の前にいる。
女神はまだ、気づいてもいない。
そして、アルペは、拳を振るう。
「がっ!?」
鎧へと、直接、殴る。
殴る殴る殴る殴る。
なんと言う速さだろうか。
拳を振るう速度は加速してゆく。
そして、衝撃波が崩れた王城の瓦礫にも伝わり、地ならしのようにドシンドシンと地面が揺れる。
「直接、殴る……?」
エーデルガンドは目を疑う。
一般人が鋼鉄に対して本気で殴れば、当然手の甲の骨は折れる。
それと同様に、あれほどの鎧に対して、アルペが殴っても何らダメージがないのが不思議であった。
だがそれは────
「……ふん」
アルペは笑みを浮かべる。
──ダイラタンシー現象、と言って、液体であるが、強く衝撃を加えると一時的に硬くなるものがある。
その性質を使って、液体の上を走るということも可能だ。
だが、液体にはなんらダメージがない。
硬いのに、だ。
アルペの種族は特殊なもので、手が異様に柔らかい。そして、手先が非常に器用である。
故に、その現象同様、硬さで言えば女神の鎧の方が圧倒的に上回ってはいるが、柔らかさと瞬間の硬さを兼ね備えたアルペの拳の方が、一枚上手だったと言えよう。
そして、──さらに
「
女神へと、地獄の炎をつける。
「……小賢しいッ!」
女神は、そこでその炎を払う。
「
アルペの最も得意とする、
そして、女神の行動を阻害する。
「…!?」
いくら鎧に身を包もうとも、それで女神の肉体の能力が向上したわけではない。
逆に考えれば、鎧は枷ともいえる。
「ふん!」
大ぶりのアッパーを、女神は直接(鎧の上からだが)受ける。
ガン、ガン、ガン、と幾度も頭を殴る。
殴る殴る殴る。
闇を纏った手で、女神の頭部分の鎧を殴る殴る殴る殴る。
これも、万能な魔法で、己のありとあらゆるものを加速させていく。
加速しながら、頭を殴り続ける。
「ぐ、が、ご!?」
そして。
そして、──刻がくる!
「!?」
──ピシ。
反撃の余地なく、一方的に殴られていた女神は焦る。
──この女、速すぎる。
殴打、殴打、殴打。
──ピシピシ
破壊、破壊、破壊。
バキバキバキ。
「あ」
女神は間の抜けた声をあげる。
白き破片が宙を舞う。
純白の天上の鎧、その頭部が。
──今、壊れた。
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