第23話

そんな憤怒に彩られたアルペは、反耳長族ダークエルフとして強い力を発揮する。


闇と同化するというもの。


否。闇そのものを操ることが出来る。


未来を斬ることが出来る天上の剣で、何故闇がきれないのか。


それは、天上の剣の権能の効く範囲内ではないからだ。


一般に、能力というものは、それそのものの能力の高さと、使用者の強さによって変わる。


例えば、全能のパラドックスのように、どちらかが矛盾する場合も、単純に能力の強い方(あるいは力の強い方)が、弱い方の能力を上書きする。


力が均衡している場合は、何もおこらないのだが。力が均衡することなどありえないと考えて良い。そう思えばかならずどちらかが、勝つ。


そして、今回はたまたま天上の剣を闇の力が上回った訳だ。


だが、その地点で女神の勝率は地に落ちる。


何故ならそれは女神の権能の殆どが、闇には何ら効かないということの証明でもあったからだ。


だからこそ、女神はアルペを覗いた三人のエーデルガンドを殺すことに集中する。

こいつでいいか。

とりあえず狙いを定めた一人へと神聖を込めた神聖球ホーリーボールを撃つ。

白き光に包まれ、ほとんどの生物は瞬殺されるのだが。

放った場所は黒き影が蠢き、光の球を受け止め、そして光の珠は霧散していく。


「ぐほぁっ!?」


さらに、女神は背後からきていた闇に腹部を貫通させられる。


「……ぐ、」


特上治癒エクストラヒール


瞬く間に女神の傷が塞がる。


「…ち」


女神は、もう逃げるしかないと判断する。


空間スペース────」


全転移阻止ストップオールテレポーテーション。」


それは男の声であった。


「さて、と。諦めるんだな、雑魚女神」


その男は、ブラッド。


右手には熾天使王セラフィムキングの頭部がぶら下がっていた。


「はっ?」


(敗けた……!?熾天使王セラフィムキングが…!あの馬鹿……ッッ!?)


「っつーことだ、降参しな、女神」


「ッッぁあぁあぁあぁあああ!!!」


敗北を認められず、咆哮してブラッドの方へと突進してくる。


「……間抜けだなぁ」


ブラッドは右手をかざす。


闇槍盾ダークランスシールド


黒い槍が空中へ浮き、ブラッドを守る盾のように張られる。


そこへ、女神は突進してくる。


刃先がすべて女神へ刺さる。


治神ヒーラ……あぁ、そうか。自分があまりに阿呆すぎて、すぐに傷つくから、そんな名前してそんな能力なんだろう?みっともないやつだな〜」


「ッッてんめぇぇえええ!」


全身傷だらけ、満身創痍な女神には、実は己を癒す神聖が本当にほんの僅かしか残っていなかった。


そこへ、ブラッドが最後の鉄拳を下す。


絶望の槍ディスランス


そして、それは出現する。


大きさは、何十メートルもある。


刃先だけで、女神の体高凡そ三メートルと同じくらいだ。


魔素から魔力へ、そして魔力から魔法へ、魔法で具現化し変換された巨体な槍、最早撃龍槍と呼んでいいほどのそれは轟速で女神へ突き刺さる。


桐もみ回転しながら、地面へと突き抜けていく。


「ぐ、ぅ、ぉ、ぅううぅぉあぅおおぉぉおあ!」


腕はぐちゃぐちゃ、腹部からは臓器が漏れ出る。

足の骨も何本か折れているだろう。


「う、ぐ、い、だぃ…痛い…痛い…」


だが、それでも女神は立つ。辛うじて地面に足をつけていると言ったようだ。


そして、使いたくはなかったが、使用する。


全回復オールヒール


そして、全ての神聖エネルギーを使用して、女神は己を癒した。


「さて、と。修羅場はとうに越えた、か。さしずめここは、地獄だな」


ブラッドは何となくそう言った。


──────────────────


数刻前。

ブラッドと熾天使王セラフィムキングは戦っていた。


そして、ブラッドは己を幻視させる、ファントムを使用し、熾天使王セラフィムキングの背後から迫り、闇球ダークボール重力球グラビティボールを使用した。


さらにそこから、


「行くぞ……ッッ!」


閃光が、迸る。


ブラッドが神速で駆け抜け、どこからか取り出した柄の短い剣で熾天使王セラフィムキングの頭部は乖離する。


「……」


どさっ、とゴミのように熾天使王セラフィムキングの頭が地面へと落ちた。


「……さてと…アルペの援護へと行かないとな」


そういえば、とブラッドは呟く。


「アイツら……大丈夫かな?…いや。そうそう負けることは無いはずだが」


それは、元犯罪者四人組のことであった。


おそらく熾天使王セラフィムキングが降臨することによって、現れるだろう天使エンジェル達の掃討を頼んでいたのだ。


犯罪者四人組。


彼らは皆、冤罪で捕まっていた。

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