悪逆の魔法使い

第9話

ブラッド達は、もともと分かっていた。

女神たちがブラッド達の存在に気づいていることに。

それは、反耳長族（ダークエルフ）であるアルペが教えたのだ。

彼女の魔法、認識理解（レコグニション）により、女神の考えが分かった。

その魔法は、無類の強さを誇る。

攻撃範囲は、ほぼ無限大。

防ぐ方法も、ないに等しい。

とはいえ、使用できるものは、彼女アルペを除いては精霊（エレメント）くらいだろう。

ーーそして、謁見の間にかくれていたブラッド達は飛び出して奇襲をかけてーー

「悪の鼓動（ダークリズム）」

魔法が発動し、悪の鼓動が女神たちに到達するーー

ーーよりも前に、世界が停止した。

「ーッ！」

「時間停止（タイムストップ）…今のうちだ…急げ、ヒーラ！」

熾天使王（セラフィムキング）の奥の手と言ってもいい時間停止（タイムストップ）。

それを使ってしまったのは痛手だが、まぁよい。

とはいえ、時間停止中はありとあらゆる事象が反映されない。

また、その対象者の周り一メートルは魔力の光で照らされるが、それ以外は真の暗闇である。

それは、光までもが止まるからだ。

さらに、自転による影響もあるが、それも魔力がカバーしてくれる。

が、時間がない。

よって、時間停止を解除すると同時に、禁止極限術を発動させ、異界召喚をしなければならない。

「はやく、詠唱を続けろ…っ」

時間停止も万能ではない。

せいぜい、一分もつか、持たないか。

さらに、今は治神（ヒーラ）も時間停止の中で動かせるように調節しているのだ。

消費する魔力は莫大である。

「わかっているわ…！あまねく命よ…私の糧となり…」

早速、女神が手を合わせ詠唱を始める。

「…あと、三十秒…合わせろ、よ」

「…血肉を生成し、穢のない魂よ…」

詠唱が進む。

その間、熾天使王（セラフィムキング）はー

「…ぐ、」

肉体に莫大な被害を与えていた。

いくら、熾天使の王でも、流石に長時間の時間停止をしていれば、肉体の崩壊が始まる。

「あとー、二秒」

「っー」

そして、世界に動きが戻る。

「解除（リリース）！」

「発動！！」

パァァァっ！と光が閲覧注意を包む。

「な」

ブラッドが目を見開いて驚く。

「馬鹿ーーな」

「ふんっ！」

熾天使王の覇気で、謁見の間にいたものは皆吹き飛ばされた。

「ぐ、ぅぉおおおお！？」

そして、煙が王宮を包む。

「…治します」　

治神（ヒーラ）は流石治癒の神と言うだけあって、肉体の損傷から、物体の破壊まで、幅広く治すことができる。

「真・治癒（トゥルーヒール）」

軽く崩れた熾天使王（セラフィムキング）の肉体が復元していく。

さらに、壊れた謁見の間が復元していく。

そして、煙に包まれた謁見の間が明るくなっていく。

ーーそして、そこには。

◇

俺達は、ただ当たり前のように授業をうけて。

当たり前のように移動教室をして。

当たり前のように部活に行こうとして。

んで。

その時。

「は？」

多分全員の思考が一致した。

白い光が教室を包んだ。

まだ教室に帰ろうとする者や、部活に行こうとする者、先生に質問しようとしているものがいるのに。

「やばー」

教室から出ようとしたが、無理だった。

光ってのはこの世で最も速い速度だから。

気づけば、白い光に全身包まれてーー

◇

「…夢か？」

「いやぁ、現実じゃねぇか？」

そこは、まるで大聖堂のような場所だった。

大きな華麗な椅子に、黄金の絨毯。

高級そうな置物が大きな部屋に置かれている。

高そうなシャンデリア。

「貴方方は、選ばれましたーー」

「…は？」

「ようこそ、我らが世界へ」

その女は、男の目を惹くというような美貌ではなかった。

最早近寄ることがはばかられるほどの、美貌。

黄金の瞳。

ブロンドヘアー。

薄いローブのようなものをきているのか。

白い肌。

体型は男好みしそうな、スタイリッシュな感じ。

顔立ちは、外国っぽい感じ。

「…これは、」

所謂あれか。

最近流行って、もうその流行りも少し収束しつつあったあのジャンル。

「異世界…転移」

しかも、クラスで。

「…イャァぁぁ！！」

「え、なにこれ？ドッキリ！？え？」

女子はパニックなのが多いようだが。

「ひゃ〜なんじゃこりゃー」　

「クラス転移ってやつ来たー！」

男子はテンション高いな…

「おほん」

ものすごい美貌の女が咳払いを一つ。

途端に静かになる。

「まずは、少し説明いたします。わたくし女神治神（ヒーラ）から。」

◇

…はぁ。

「なるほど、なんとなく分かりました」

クラス長の佐々木（ささき）真也（しんや）が話しかける。

「つまり、我々は悪魔王を倒せば良いと？」

「ええ、それから、この国にも今悪魔王の手先の者共がいますから、それらの排除に人手が必要なのです。あなた達のようや、優秀（・・）な人々が」

女神の話によると、

この世界はかつて大戦争をしていたが、それが収まった。

しかし、今また新たな火種となりそうな勢力、悪魔軍団が現れた為、おれ達にその討滅を頼んでいる、らしい。

「はぁ？とはいえ僕たちは戦えませんが…」　

「…？そんなに魔力を持っていて何の冗談なのかしら…？」

「魔力？」

「…！そうか…ﾎﾞｿﾎﾞｿ…」

女神ヒーラは何か呟き出したようだ。

「しかし、こんなに広いのに僕たちと女神様しかいないのですね」

「ええ、まぁ」

「…で、」

「ええ。まぁ魔力などについては説明します。えー、まず、魔力の前に魔素（マナ）についておしえなければならないのですが…」　

「…」

みな、ポカンとした様子だ。

？アレ。

「てか、先生は？」

伊藤咲（いとうさき）がそう言う。

「…確かに！」

「あれー？おかしいな…」　

「…あなた達…少し静かに出来ないかしら？」

ズン、と。

まるで、何十キロもある重りを頭から落とされた気分だった。

「ーー」

鳥肌が立つ。

それと、同時に認めざるを得ないのだ。

もう二度と、俺達の世界へは戻れないのだと。

日本には、帰れないのだと。