第26話

「……こ、降参。」


それを言う他、女神には言葉が無かった。

純粋な実力不足であるが、それを口にし、さらには認めるのは業腹であった。


しかし。


「あ?舐めてんのか、てめぇ」


ブラッドはイラついた口調でそう言う。


「ここから無事逃げられるとでも?降参と言えば解放してくれるか?無能だから許される?正義だから、強いから、そんな理由で今、ここに立ってていいわけねぇだろ」


「…」


「アルペ、頼む」


神捕縛ホールドゴッド


「!?」


藍色の鎖が空中から現れ、女神を雁字搦めにする。


これにより、女神が逃れることは不可。


「さて、では聞こうじゃないか、極限禁止術を使おうとしたか」


「…この国ラディアが、ちょうど都合が良かったからよ?」


やけに上から目線だが、まぁそこはブラッドの癇癪にふれつつも、受け流す。


「ちょうど都合が良い?」


「えぇ、実験のため」


「魔法のか」


「えぇ」


「それだけか?」


「それだけ」


シュパッ。

ブラッドの右腕が神速で動き、女神の舌を引き抜いた。


「嘘つきの下を抜くんだ、そういうこと聞かされるだろ」


「〜〜〜!!」


声にならない悲鳴を女神はあげる。


頭を大きく揺らし、必死に捕縛から逃れようとするが、無駄だ。


治癒ヒール…」


ブラッドの魔法により、女神の舌が再生する。


「へ?」


涙を流す女神は激痛が消え、何が起こったかと思う。


「よし、じゃあお前のようにこれから実験といこうじゃないか。神族はどこまで耐えらるか…アルペ、少し移動してる」


「ん」


空間転移スペーステレポーテーション


‎◇


‏女神、治神ヒーラにされたことは未だに覚えている。


母親が残虐な殺され方をして、その後出会った唯一の友を失った。


それが俺だ。ブラッドの人性だ。

文章に起こせば二行もないような薄い内容だ。

しかし、だからこそ俺にとっては大事だった。



だから、許せない。


俺の友人を殺した張本人が目の前にいるのだか、許せるわけがない。


‎◇


‏「ブラッド」


「お?」


虹色蜥蜴竜レインボーリザードを焼いている俺に、アイツは言った。


「…そう言えば、俺たち出会って二年くらい経つだろ」


「あ、あぁ?」


「あそこに行こうぜ」


あそことは初めて俺達が出会った場所のことだろうか。


まぁ良いが。


「…」


俺達は無言の足取りでそこへ至る。


「…初めて見た時は驚いたものだよな」


「そうだな」


全長二百三メートル。


世界最大の滝、世界の滝ワールズフォール

物凄い水飛沫だ。


「…凄いないつ見ても」


「あぁ」


‎…初めて会ったのはどんなだったか。


無愛想な俺に向こうから声を掛けてきたんだ。


旅人ですか、と。


そして、そこから俺たちの旅物語が始まったんだ。


俺達は運命共同体。


いついかなる時も一緒だったんだ。


その時までは。



「ん?」


「なにか、来る…?」


パシっ、と無造作に。


軽快な音と共にアイツの四肢がもげた。



「ぅ、ぁ」


「?」


「ぅあぁぁあぁあぁ?あぁぁぁあ!!」


血が噴出。

勢い良し。止まる気配非ず。


「誰…だ、てめぇは」


俺は目の前にいる女の魔力量に驚きつつ、アイツの四肢をもいだのがこいつだと気づく。


「て、め、ぇ」


「うーん、これは失敗ですね、脆い」


「はっ?」


ドスッとアイツ何かを刺して、女はすぐさま消えてしまった。


「お、おい!い、今助けるからな…」


「ご、ごごあっふっ」


特上治癒エクストラヒール…!」


傷は塞がるが…何だこの違和感は。


「…お、おぉおぁ!?」


アイツの顔が、腕が、足が変形していく。

骨がゴキゴキという音をたて、苦痛に歪んだ顔も変わっていく。


そして、それはだんだんと人の形を失っていく。

ヒトのカタチを。


そして、人である時の最後の言葉を俺は聞いてしまった。


「──殺して、ぐえ」


口も変形して行くなかで、唯一聞き取れた言葉がである。


「ごめん、ごめん、ごめ、ん、ごめん」


ごめんなさい。ごめんなさい。

ごめんなさい。


俺はお前を殺したくなどは無かった。

もっと生きて欲しかった。

俺は自分でアイツを切り殺す。


そして、俺は決める。


お前の分までいきると。

屍など、とうに超えてきた。


あとは地獄の炎に焼かれるだけだ。


覚悟しておけよ。


神族の女…女神!


‎◇


‏「…さぁ、じゃあこんなところで情報は吐かせ終わったかね」


「も、もう全部言ったわよ!あなたには絶対に敵対しないからはやく解放してぇ!」


「んー」


「…ひっ…!」


女神は初めてヒトに恐怖を覚える。


ブラッドは女神の太ももを舐める。


そして、噛む。


そして、噛み、千切る!


「っっっぅァアアェアぁぁあぁあぁ!!」


「これが神経が?というより女神にも神経があるのか。」


「お、ま、え、なに、を」


「よし、お前を食べる」


「…」


「もちろん、生でな」


「お前。おまぇぁぁぁあぁあぁ?!!」


「察しがいいな、おい」


そして、ブラッドは女神を美味しく頂こうとする。


しかし。


「うむ、骨が邪魔だな」


そこでブラッドが異空間から出したのは、刃渡り三から四十センチのノコギリだった。


非常に鋭利である。


「よし、じゃまずは右脚切り落とすからなー」

‎ゴキゴキゴキ。

‎激痛のあまり、発狂し続けていた女神は、一度失神した。

‎「なぁ、知ってるか、激痛の失神は、生命に関する痛みがはしった場合強制的に起こされるんだぜ」

‎「…〜〜!」

女神は‎とうに何を言っているかは分からない、踊り狂う人形のようになってしまった。

‎「では、切り落とすぞ」

‎◇

‏達磨のように、両腕両脚を失った女神は、流石の生命力でまだ生きている。

‎「…そろそろ弱まってきたか…?じゃあもう殺るか」

‎「殺して。ころして。こおして、こぼして、こどして、こおして」

‎「気持ち悪いなぁ」

‎そして、ブラッドの手刀により女神の頭部は割れ、脳漿は飛び散り、眼球が飛び出る。

‎「うわっ、変な汁かかったよ、ぺっぺっ…最悪だよもう」

‎そして、そこで達磨のようになった女神を見てブラッドは思う。

‎「んー、勿体ない」

‎そして、

‎ブラッドは彼女を臓物含め全て食す。

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