第27話
猟奇的な思考、行為である。
女神を食すなど、人智を超えた、なんと烏滸がましい行いであろうか。
しかし、彼はそんなこと微塵も考えない。
考える脳を捨ててしまったのかもしれない。
そして、女神の眼球も、女神の心臓も、女神のあらゆる部位を彼は食す。
あぁ、なんと可哀想な女神だろうか。
そして、彼もまた被害者になるであろう。
ヒトが神を喰らうとどうなるのか。
神喰らいの神人。
と、言ったところか?
まだ、半神であるが。
◇
「う、ぐぅっ?」
ブラッドは呻く。
肉体に鈍痛がはしる。
恒常的に鈍痛がはしる。身体中が、メキメキと押し潰されるような痛みであった。
「うご、け、ない」
身体が停止する。
理由は単純であった。
魔力の過剰摂取。そして、神喰らいという行為。
それらが原因であることは明白だった。
しかし、ブラッドは風邪などに対する耐性があるのだ。
腐肉を食ったところで決して腹を壊さないほどの。
「……ん、だぁ?これ、は」
「……それは、何かしらね…?」
「あ、あ、る、ぺ?」
「暫く待っても来ないからね。私から来たってわけ…で、なんで蛆虫みたいに這ってるわけ?」
「ふ、ふふふ、あは、は、く、くってやったさ」
「食った?」
「あぁ、女神の野郎を…な」
「……!!…そう」
アルペは少し遠い目をして、聞いた。
「じゃあ死んだという事でいいわね?」
「あ、あぁッ!」
「……それ、動けるの?」
「い、や、無理、だ」
「でしょうね、どうするの?私も女神を食ったやつなんて初めて見るからどうすりゃいいのか分かんないんだけど」
「…」
だが、アルペはそれの原因に少し検討がついていた。
「一般に、ヒトの魔力の色、まぁ元来は無色なんだけど、ある魔法を使うと見える色…はね、青色を示すのよ」
アルペは指を振るう。
「
すると、ブラッドの身体から溢れんばかりの金色の魔力が出ていた。
「……金色、やはり神族の魔力ね」
「…それ、が?どうし、た…ごふ」
ブラッドは少し吐血する。肉体への負荷が重くなってきている。
「なら対策法はあるわ。3000万年前の文献が正しければ、だけどね」
◇
およそ3000万年前の文献にはこうある。
ヒトが神に成る際の話だ。
金色の魔力がそのヒトから溢れる。
金色の魔力を纏うそのヒトは馴染まない魔力、自分にとって大きすぎる魔力に圧迫され殺されかける。
そのヒトを助けるため、
それは、至ってシンプル。
金色の魔力量が爆発的ならば、その魔力量にヒトの魔力量を合わせてしまえばいいのだ。
そこで開発された魔法が、
全国民の魔力を八割ずつ分け与え、たった一人のヒトへ与える技。
ちなみに使用者は一人でいいが、前提条件として、全国民が手を繋ぐ、またはそれに近い位置にいなければならない。
そして、その使用者も天才を超えた天才的な魔法使いでなければならない。
「今まで幾多の魔法参考書を読んできたけれど、やはり真の神化へ成功している例はそれしかないわ…他は全て失敗、道半ばで死んでいるものたちばかりよ」
「…じゃからと言って…それワシに言うことか?」
「えぇ、国王サマ」
「…ブラッドのためじゃからいいんじゃが…」
「今は、ちょうど逃げていた帝国からラディア国の国民たちが帰ってくるところよね」
「あ、あぁ」
「じゃあ都合いいじゃない」
「ワシの一言でなんとかしろと?」
「貴方の一言で帝国へ逃げられたんじゃない」
「うぅ」
ここで補足しておくが、アルペの使用していた
一時的に、擬似的に神としているわけで、正確に記すなら神に成っている訳では無い。
しかし、今ブラッドがしようとしているのは真の神化。
「……でも」
何か変だ、と思う。
ここまで強力な魔法などがぶつかりあって、世界を正す力、闇、が現れないなんておかしい。
第一、死にかけていたあの森も、今なお生きている。
まだ女神の死から一日しか経っていないが。
それでもおかしい、とそうアルペは考える。
そして、つかつかと歩きある部屋へ行く。
「おい」
「……?」
「はい、あ〜ん」
「…!あ、アンタたち…」
元国王の娘、アロヴァ。そして、その娘が掬ったスープを飲もうとしているのは、神になろうとしている男、ブラッド。
「まあ、いいわ。それよりも、体調はどう?」
「はい、ブラッドちゃんの馬鹿げた魔力量のおかげで辛うじて大丈夫ですが、あと二日、持つかどうか」
「そう」
とにかく、これから発動させる魔法には多くの人が必要だった。
故にアルペがすることは人集めであった。
◇
「……ぐ」
元国王の力を全面的に使って、それでやっと全員が一列に、蛇のように並んでくれた。
ラディア国から帝国への道、それから帝国内へ一列へ続く。
「ふぃ、ワシも久しぶりに疲れたのぅ。帝国の王と仲良くなかったらこりゃ戦争じゃぞ」
「…」
すぅー、とアルペは息を大きく吸う。
「やるわよ!」
◇
ブラッドの部屋へアルペは駆け込む。
「ん”…ッ!」
両手をパシッと合わせる。
「
……と、同時に。
「うむ」
アルペの後ろには、元国王、その娘、別の王室の者…と永延に続いている。
「
全国民から魔力を吸収する。
「ぐ…………うぅッッ!?」
アルペの身体に激痛となんとも言えない感覚がはしる。
本来魔力とは多量に動かないものだ。
体力もそうだが、見えない血のようなもの。
血と違うのは無くなっても一日後には大抵空気中から魔力を回収しきっているのだが。
それを多量に受け取りながら渡し続けるのは、生半可な精神では不可能。
「ぐ、ぅぅ」
◇
永劫に感じる時間──十時間──が経過した。
「…」
終わった。
やっと魔力の譲渡が終了したのだ。
溢れる魔力が、収まった。
「この…アホ男」
寝込んでいたブラッドは立ち上がる。
そして、目を瞑る。
「世界が変わったみたいだ。これが神化か。俺は、神となったのか。なんという全能感だ」
「確かに馬鹿げた魔力量ね」
いや。馬鹿げたという表現では陳腐で現しきれないそどの、莫大な魔力が覆い続けている。
「ほんと、に…」
ドサッ、とアルペは倒れこむ。
「相当疲れてたのか…」
いやそれは俺もか、とブラッドは言う。
「なんだか頭がおかしくなっていた気がする。少し、頭を冷やすか」
脳内が透き通ったような感覚のブラッドは気分よく、神へと成る。
◇
「ほぅ、ヒトが神へなるとな」
「一体何年ぶりだろうかね?」
「さぁ、覚えてないなぁ。まぁ、新しい神の誕生祝いだ、飲もう」
「だらしがないなぁ。しかして、彼はどんなだろう?」
「どういう神かってことか?」
「いや、アレは…体内に
「それはそれは」
「実に興味深い」
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