第6話

「住民の避難か…ならワシにまかせてくれんか?」

 

「ん?」


「大丈夫ですか?」


「まぁ、な…ワシにどれくらいの伝手があると思っとる…それにワシは国王じゃったぞ」


「そーいえば」


「そうですね」 


息があったな。


「…ふん」


「ま、とにかくだ。戦力は俺の方で何とかする。アロヴァは…」


「バレないようにすればいい…ですよね」


「あぁ。幸いこの国の人口はそこまでだ。それに隣国、ラージ・アディアとは仲がいい。そこに逃げ込めば大丈夫だろう」


「そりゃ大丈夫じゃ。ラージの現国王とワシは超仲良しじゃからな」


「…それは僥倖だな…で、恐らく国は滅んで難民大量発生しちまうんだが…」


「え?闇をどうにかすればいいんじゃないですの?」


「方法は無くはないんだが…それだったらまたイチから国を作った方がはやいかもしれん」


国に現れるであろう、闇。


それを取り去ることは極めて難しいのだ。


今後は国に残り続けることになるだろうが。


「えぇ!」


「闇を消すのはそれくらい難易度が高い…ま、とにかく」


俺は町の方へ目をやる。


「住民の避難が最優先だ…」



「…ってことだ。協力してくれないか?」


「…はぁ?アンタ本気でいってんの?熾天使王セラフィムキングと、治神ヒーラを倒すって正気じゃないわよ」


「…そんなことは分かっている。リ・アルペ」


「…何急にフルネームで呼び出して…きもいんだけど」


ふむ。どうだろうか。


「お前には感謝している。いつも付き合ってもらって悪いと思っているよ…」


褒めちぎってやらないと。


「…は、はぁ!?な、何アンタ…急に…バカじゃないの?…」

 

「…アルペ…お前の力が必要なんだよ…」  


「…え、あ、う」


キタキタ。


反耳長族ダークエルフは不意打ちに弱すぎる。


この傾向を利用する。


「…頼む…」


アルペに顔を近づける。


「ちょ、ま…わ、わかったから…!」


若干顔を赤らめるアルペ。


リ・アルペ。


俺の知る反耳長族ダークエルフの中では最強にして最高。


見た目は流石はエルフ、美麗と言ったようだ。

別に肌は褐色ではない。


かと言って純白でもないが。


顔はそれなりに整っているが。


今回、熾天使王セラフィムキング治神ヒーラを倒すにはアルペの力が必ずいる。


魔法使いのほぼ頂点。


魔獣、デスベルを一撃で仕留める程だ。


その彼女の中で最も最強たる所以の技は、多くが、怨嗟グラッジ系統の技。


じわじわと蝕み、相手を殺すようなものが多い。

 

「そうだな。よし」


「?」


「今回は大規模戦になる…もっと人を呼ぶ…その中でアルペ、お前は大事な要だからな…頼む…」


「ま、任されたわ…」


よし。


押し切った。





「…と言う事だ。お前らにも協力してもらうぞ」


最高位騎士、六人に対して言う。


エーデルガンド筆頭。


他5人。


「…えぇ~、ブラッドさん一人で何とかなるんじゃないすか~?」


「ばかやろう。そうやって慢心すると神族にはすぐ負けるぞ」


「…へぇ~」


「…ま、俺はいいがな。というより、俺が前行ったデスベルの森…もう死んでしまったか…?」


デレウスが言う。


「あぁ、流石に死んでしまったようだ。まぁ、想定内だが」


森が死ぬ、とは。


そんな事ありえない、と思うかもしれないが、森や海など自然の場所は、マナの量などによって、エネルギーが枯渇し、土地が死ぬことも少なくない。


故に、森が死ぬ。


「良いか?最高位騎士たち…」


「ふむ、デレウスがいいと言うなら我々も良いが」


デレウスの方を向く。


「もちろん良いぞ」


「…よし」


人員集めはあと少しか。




多少日数が経った。


およそ、あと7日でここに熾天使王セラフィムキング達が来ることになっている。


まぁこれも、サリヴァから聞いただけの情報で、嘘か真かは全くわからないのだが。



少なくとも――


「…」


街には人っ子一人の気配はない。


店は全て施錠してあり、家々全てに施錠が施されている。


みな、隣国へ避難したようだ。


「流石に元国王…」


やるな。


更には、これを悟らせないようにしたアロヴァの功績も大きい。


…何故神族たちにバレていないと断言出来るのか。


神族達は、非常にせっかちで、それでいて、激昂し、手がつけられなくなる。



そういった習性のようなものがある。


故に、大丈夫。


バレていればとっくに戦闘が始まっている。



「さて、準備を着々と進めている、か…」


街を歩く。


「ん?」


「お、ブラッドか」


最高位騎士、エーデルガンド。


最高位騎士とは。


国家の中でも、限りなく優秀とされる騎士の集まりである。


最低条件として、まず術が使えること、これが入る。


エリート中のエリート。

それが、最高位騎士。


騎士の実力はもちろん、魔法や術を使用できて、なおかつ知識も豊富。


そういうやからだ。


最高位騎士と言うのは。


「とはいえ、現国王を裏切るようでなんとも言えない気分になりますがね」


「…サリヴァは気づいていないな」


「ええ。全く。それに、毎晩、遠隔石リモートストーンで話しているようですし」


遠くにいても会話が出来る石。


遠隔石リモートストーン


解明は進んでいるが、それが何から出来ているかさえ分かっていない。


特殊文明機器というものの一つだ。


「…あぁ、俺もその内容は毎晩聞いているからな」



「…」


デレウスは空を見上げる。


「…曇りですね」


曇天だった。


「…雨、降るかもな」


「…」


デレウスは呑気なやつで、案外明るいやつなのだが。


戦の時はそうでもないようだ。


「この一週間後…神と戦うなんて…嘘のようだ」


「…まぁ、俺も初めてだ…お互い頑張ろう」


「ええ」


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