27――魂の呪縛

 スラポンの剣が死霊使いに届くかと思われた瞬間。


「ぐあああっ!!」


 その体は業火に包まれ、こちらに吹っ飛んでくる。


「ポ、ポーションを……いや、その前に水か?」

「どっちもありますよ、御主人」


 モフィーリアが取り出したマジックバックに手を突っ込み、水が入ったバケツを取り出しスラポンにぶっかけてから、ポーションを手渡す。中が亜空間になっているのはさておき、バッグの開け口より大きいバケツをどうやって出し入れできているかについては、今考えている余裕はない。


「思ったより損傷が激しいな……」

「主君の命令に反した影響もあるでしょうね。例えば、スラポンが御主人を害そうとすれば、契約により魔力を失い、ただの人形に戻ります」

「命令に反する?」

「御主人、さっき止めたでしょう」


 モフィーリアの言う通り、スラポンは僕の呼びかけを無視して突っ込んでいった。その時の様子がおかしかったのも気にはなるけど……命令違反でダメージを負ってしまうとは、主である僕の責任も重く圧し掛かってくる。


「本来、身代わり人形は意思を持ちません。だからこそ、他人から操られるなどして主人に牙を剥いた際のペナルティーがあるのです。

ただ……スラポンに使った魂は、余程強い思いがあるのでしょう。彼はあの幽霊たちに攻撃できませんでした」


 彼女が指差す先の幽霊たちは、さっきよりも明確に悲痛を訴え、泣いていた。


『お願い、逃げて……』

『頼む、もうこれ以上傷付けさせないでくれ』

「旦那様! 奥様!」


 スラポンが起き上がり、二人のもとへ手を伸ばそうとするのを押し留める。スラポンはここの屋敷の使用人だったのかもしれない。もちろん、使ったヒトダマは三十人以上なので、特定の誰かだけのものではないが。


「どうする? あの幽霊たちを何とかしないと、死霊使いには攻撃は届かないぞ」

「キャハハハハッ」


 僕たちの苦悩をさも愉快そうに、耳障りな声で笑い転げる女。ぶっ飛ばしたいけど、まずは直近の問題からだ。


「では、彼らが自ら呪縛を解くしかありませんね」

「どうやって? それができれば今頃苦労してないだろ」


 モフィーリアはシニカルな笑みを浮かべ、マジックバッグから取り出した物を床にドンと置いた。それは、隠れ家でエルフィーネ――木霊様の声を聴かせてくれたラジオだった。


「これを使って訴えかけます」

「おいおい、何を始め……危ない!」


 訊ねかけたところを、またも攻撃魔法が飛んできたので咄嗟に盾で防ぐ。立ち直ったスラポンも、僕の前に立って剣で弾き返していた。


「御主人たちは、そのまま私を護っていてくださいね。それと聞こえにくいんで、あまり大きな音を立てないように」

「無茶言うな!」


 振り返って怒鳴りたいのを我慢し、僕たちは敵の次の攻撃に備える。


 その時、背中の後ろであの時の……ラジオの声が流れ始めた。


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