12――月下のラジオ

 目を覚ますと、部屋の中は真っ暗だった。クラフトの練習を繰り返したせいで魔力切れを起こし眠ってしまったらしい。スキルに魔力は要らないが、僕の場合は魔道具を使うからなぁ……

 モフィーリアは僕を一人ベッドに寝かせて、どこかへ行ったようだ。部屋に唯一あるドアの隙間から僅かに漏れる光を頼りに、ベッドから下りようとする。


「いてっ!」


 何かを踏んずけてしまったので目を凝らすと、練習で作った棒やボタンが大量に転がっている。クラフトするだけでヤスリまでかかってる仕様なのがありがたかった。棘が刺さったら大変だ。


(モフィーリアは、どこに……いた!)


 ドアを開けると、もう一つ部屋があり、モフィーリアはテーブルの席に着いて奇妙な機器の前でじっとしていた。ここは木の洞の中のはずだが窓があり、月明かりが差し込んでいるので寝室よりは明るい……が、ランプも点けていないので暗がりには違いない。何とも気味の悪い光景だ。


「お前、何やってんの? この変な箱なに?」

「お姉様のラジオが始まるんです」


 モフィーリアは僕の事など目もくれず、テーブルの上に置かれた箱を凝視していた。そう言われても意味が分からないので、仕方なく少ないセリフから推測する。


「えーっと……確認なんだけど、この箱が『ラジオ』って名前なんだよな? 何が始まるんだよ。お姉様って?」

「お姉様はお姉様です」


 モフィーリアの答えは何とも要領を得ない。目の前で手をブラブラさせてみれば、嫌そうな顔をしてようやくこっちを向いてくれた……僕はお前の主人じゃないのかよ。


「私は毎週エルフの曜日のこの時間を楽しみにしているんです。本当は邪魔しないでもらいたいんですけど……しょうがないから説明してあげます」

「この『ラジオ』って魔道具を使うんだよな?」


 箱の上にはダイヤルと水晶玉、横には丸くくり抜いた穴に網が張られている。水晶玉には魔力を増幅させる効果があるのだが、この『ラジオ』を起動させるには結構魔力が必要らしかった。

 モフィーリアが水晶玉に手をかざすと、ザザッと少し耳障りな音が聞こえ始める。まるで砂が滑るような音だ。


「何だ、この『ラジオ』ってのは、一体何の魔道具なんだよ!?」

「通信機器の一種ですよ。この国中には聖樹の根っこが張り巡らされています。ラジオは水晶玉で増幅させた魔力を根っこに宿る精霊魔法とリンクさせる……そうする事で、精霊の声を拾えるんです」


 精霊の、声が聞けるだって!?

 僕の脳裏に、夢で見た木霊様の姿が浮かび上がる。囁きかけてくる、穏やかで優しい声――それはまさしく、お告げじゃないのか。


 思わずモフィーリアと共に水晶玉を見守っていると。


【ジャジャン♪ ジャジャン♪ ダララララ…】

「!?」


 突如として楽器をかき鳴らすような激しい音楽が耳に突き刺さった――と同時に。


【エルフィーネのぉ~シューティン☆レディオ♪】


 聞こえてきたのは、やたらハイテンションな姉ちゃんの声だった。


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