14――番組終了後

 静かな曲調をバックに何やら物騒な合言葉を残して、女性の声は聞こえなくなった。モフィーリアは終わったというのにまだラジオの水晶玉に手を載せ、騒いで……いや、話しかけている?


「お姉様お姉様、お久しぶりです! すっごくよかったよ! あのね、私、人間に戻れたの。ほら、お姉様が言ってたこいつ」

「いてててっ!」


 耳を引っ張られ、悲鳴を上げる。モフィーリアの視線を追うが、そこには何もないし何も聞こえない。一体彼女には何が見えているのか。


「ダメなの、それはまだ教えてないから。うん大丈夫、こいつ絶対ハマるから」

「こいつこいつって……僕、一応御主人様じゃなかったのかよ」


 パッと離された耳を擦りながらぼやくが、モフィーリアは微動だにしない。やがて水晶玉の光が消えると、ようやく息を吐き出した。


「はあ……今週のお姉様も素敵だった。お便り五通も読まれたし……あ、そうだ。御主人の事もネタにできるわね」

「おい、無視すんなよ! 結局、何だったんださっきのは!?」


 終始置いてきぼりのままで、ついに大声を上げると、モフィーリアはきょとんとして首を傾げた。


「ラジオと番組の説明ならしたでしょ?」

「あの女性……エルフィーネだっけ。彼女は精霊なのか?」

「そうですよ、敬愛するお姉様なのです。毎週エルフの曜日、私はこうしてラジオの前に座ってお姉様のラジオを聴くのが習慣だったのです。

……が、ご存じの通り、猫の姿に変えられてしまってからは、ラジオはおろか、お便りを書く事もできず……人間に戻れて本当に助かりました!」


 出会って以来、一番いい笑顔で礼を言うモフィーリア。さっきまでの態度から本当に感謝しているのか疑わしかったけれど、このラジオ番組をどうしても聴きたかったのだという想いだけは本物のようだ。


「このラジオとかいう魔道具、僕にも作れるのかな?」

「もちろん、登録されてますから可能ですよ。と言うか、発明したのは私なんですが」


 なにっ!? ……と驚いたけれど、考えてみれば彼女は魔道具職人だった。まあ、僕は昨日新しいスキルに目覚めたばかりで、まだ作業台と木の棒、ボタンぐらいしか作れないんだが。


「ついさっき、番組が終わってからも水晶玉に話しかけてたな。あれは?」

「ふっふーん、このラジオって国中に張り巡らされている聖樹の根っこに水晶玉を通じて魔力を送る事で精霊の声を拾えるんですが、この月のピアスがあればさらに魔力を送れて、お姉様の姿を拝めるんですよ!」


 確かにモフィーリアの耳には出会った頃からピアスが付けられていたけど、まさかラジオを聴くためのものだったとは……何となしに手を伸ばして触ろうとしたら、嫌がって避けられた。


「会話もしてたみたいだけど?」

「そうですよ、ピアスがあれば番組終了後にちょこっとだけお姉様とお話できるんです。追加で魔力を吸い取られる訳ですから、リスナー全員にお勧めはできないんですけど……言わば聖樹の養分ですからねぇ」

「嫌な言い方するな……」


 そんな雑談を交わしながらも、僕は最後まで気になった事を聞けずにいた。


 あのラジオから流れる『エルフィーネ』なる女の人の声が――口調は全然違うが――夢に現れた木霊様のものとそっくりだなんて。


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