15――星降り注ぐ夜

 ★ ★ ★ ★ ★


『これが、『らじお』っていうやつ?』

『そう、向こうじゃ毎週聴いてた番組があってさ。まあさすがに異世界じゃ電波も届かないか』


 今回の夢にも、おっさんになったコージとフィンが野宿しながら焚き火を囲んで話し込んでいた。フィンの手には、モフィーリアが作ったのよりずっと小型――手帳くらいの大きさ――の長方形の物体がある。フィンはラジオから細長い金属の棒を引っ張り出したり、半分埋め込まれた歯車を弄っていたが、コージが手を差し出すと素直に返した。


『なぁに、『でんぱ』って?』

『ラジオを聴くのに必要なものだ。俺のいた世界では魔力がない代わりに電気が生活を支えていてな。電気ってのは……そうだな、雷の力とでも言えばいいのか』


 そう言ってコージはラジオの説明を始めたが、ついさっき現実でも経験した事と合わせて、僕はラジオの仕組みを理解した。この世界のラジオは、聖樹の根っこを通して魔力を流す事で使用できるのだが、まさに電気の代わりに魔力を利用しているのだ。


(あれ? でも確かラジオを発明したのはモフィーリアだって、さっき言ってたよな。それに、この頃はまだ異世界にしかないもので、この世界浸透してないみたいだし)


 コージの説明によれば、異世界のラジオから聴けるのは電波の届く距離にいる人間の声や音楽であって、精霊ではないようだった。その辺が、僕が見たあのラジオとは違う。


 考え込む僕をよそに、二人はラジオの話で熱く盛り上がっていた。


『楽しそう! フィンさんもやりたい!』

『そうだなぁ、ラジオの利点は作業しながらでも聴ける事だし、ネットワークが広がれば情報も集まって、フィンの居場所もきっと見つかるさ』

『情報が集まってくるの?』

『そう、番組を作ってお便りを募集するんだよ。話題は何でもいいけど、届いたお便りを読み上げる事でリスナー…聴いてるやつらに自分の投稿も読んで欲しいと思わせるんだ。フィンは声も可愛いから、きっとみんな夢中になるぜ』


 可愛いと言われ、フィンの頬がリンゴみたいにポッと赤く染まる。確かに声も可愛いが、その愛くるしい姿も一緒に届けられたら……


(って、あれ? 魔力を追加すればできるって、そんな事モフィーリアが言っていたような……)


 エルフィーネと名乗る精霊の声……僕の夢に現れ、お告げを残した木霊様のそれと同じだったが、あまりにハイテンションなので同一人物なのかは怪しいけれど。

 そう言えば、フィンも幼くて甲高くはあるものの、エルフィーネとかなり似た声質だ。髪も木霊様と同じ虹色で、満天の星空に負けないほど煌めく瞳はエメラルドみたいで……


(あれ……??)


 僕の脳裏に何かが閃きかけた時、フィンは突然立ち上がって夜空を指差す。その先には、次々と流れ落ちる星たちがあった。流星群ってやつだろうか。


『すごーい、流れ星がこんなに! えっと、コージはいつかまたラジオを聴けるようになりますよっと』

『ハハ、魔力が高いフィンがお願いしてくれたら百人力だな。……どうせなら元の世界に帰れるって内容がよかったけど』

『ぶーっ、流れ星にそんな力あるわけないでしょ。それに、これはお願いじゃなくて決意表明なの。コージを夢中にさせるラジオを聴かせてあげる』


 プクッと頬を膨らませるフィンに、本気にしていないのかへらへら笑いながら、虹色の髪をクシャクシャに撫で回す鈍ちん中年親父。


『はいはい、そんじゃ番組名も今から決めとくか? どんなのにする?』

『えーっと、そうね。流れ星……シューティング・スター……』


 ★ ★ ★ ★ ★


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る