16――マジックバッグ
「……」
チュンチュン、と鳥の鳴き声と朝の光で意識が覚醒する。
今の気分を、どう形容したらいいのか分からなかった。
木霊様のお告げがあって以来、見続けている、僕が別の誰かになる夢。あれは本当に、ただの夢なのだろうか。『ラジオ』に関する知識は異世界人が持ち込んだもので……発明したモフィーリアは、それを誰から聞いたのか?
耳に残る、鈴の音のような声。
ある時は子供のように、ある時は母親のように。そしてラジオでは別人のようにハイテンションで喋っていたけれど、声質はどれも同じだ。
(エルフィーネは木霊様で、かつてのフィンって事なのか? でもいくら人間離れしてると言っても、彼女は精霊じゃない。やっぱり夢は夢でしかないのか……)
とりとめのない事をいくらうんうん唸ったって解決できるはずもない。とりあえず僕は木霊様……エルフィーネの正体については一旦脇に置いておく事にした。
★ ☆ ★ ☆ ★
「今日はマジックバッグを作ります」
身繕いをしながらモフィーリアは新しくクラフトするアイテムについて説明する。ちなみに洗顔は植物園にあるトイレの洗面台を使用している。入園時間前なのに見つかったらどうするんだ……
「鞄?」
「ただの鞄じゃないですよ。例えば普通のトランクだと、すぐにぎゅうぎゅうになっちゃう上に交ざっちゃって取り出すのが大変でしょう?
その点、マジックバッグは亜空間に作ったインベントリに五十四種類のアイテムを収納できますからね。ちなみにアイテム一種類につき六十四スタックまで入るから……」
「ちょちょ、待って待って」
僕が知ってる前提で、当たり前のように専門用語使って先に進めないで。亜空間とかインベントリって何なんだよ。もっと分かりやすく言ってくれよ。
そう懇願すると、モフィーリアは歯痒そうにしていたが、子供だから仕方ないかと溜息を吐く。子供と言うより素人なんだけど。
「つまりですね、魔法で小さな入れ物にいくらでも入るようにできちゃう鞄です。無限というわけでもないですが、ざっと三千個以上はいけると思っといてください」
「三千!? それはすごいな……でも、確かに便利だ。棒とかボタンからいきなりそこまで行って大丈夫なのか?」
「これから御主人の実家に行って、物置の中身を回収しなくちゃいけませんし、クラフトする上で自分用のマジックバッグがあれば便利ですよ」
そう言ってモフィーリアは、女性用の肩掛け鞄を取り出してみせた。こんな小さい鞄に三千個もアイテムが入るのか? 本当に、どんな大きさでも……?
「それで、レシピは?」
「大したものは要りません。普通の鞄に魔石があればできますよ。御主人だと……トランク代わりに使ってたギターケースにしましょうか」
えっ、あれを?
モフィーリアに渡された魔石と空のギターケースを受け取り、作業コンパクトを開いてクラフトする。練習のおかげで、だいぶコツが分かってきたぞ。
「魔道具を作るのには、魔石は必須なんです。でも貴重だから貸すだけですよ。ちゃんと返してくださいね」
「返済できるあてなんてできるのかな……」
画面の端に追加された、小さなギターケースの絵を眺めながら、それでも僕の中にはもっと色んなアイテムを作りたいという欲が生まれていた。
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