17――魔法陣

 再び実家に戻った僕たちは、スティーブ兄さんから倉庫の鍵を貰い受けた。もう使わないから好きに使ってもいいそうだ。


「しかし、たった一日か二日でこんな可愛らしいお嬢さんを連れてくるなんて、お前もやるな。ちゃんと養ってやれるのか?」

「そんなんじゃないって」

「そうですよ、私は御主人に恩はありますが、ご自分の食い扶持くらいは稼いでもらいます。そのナビゲーターのためにいるんですからね」


 うちのメイド服を着ているため、色々誤解されてしまったモフィーリアだが、とりあえず縁があって一緒にいる、くらいの説明で留めておいた。最初に帰郷した時にいた黒猫が彼女だなんて、ややこし過ぎて信じてもらえないだろう。


「荷台も用意した方がいいか?」

「必要ないよ。あと持ち物が多くなってきたら、逆にこっちに置かせてもらうから」


 そう言ってモフィーリアと二人で倉庫に入ると、眼鏡ケースを取り出して装着する。作業コンパクトを開けると、モフィーリアから収納したいアイテムに触るように指示された。


「マジックバッグ――その画面ではギターケースのアイコ……絵をタッチして、インベントリを開いてください。そして『収納』を選択すると、手に持ったアイテムがそこに吸い込まれますから」


 言われて試しにマグカップを持ちながら『収納』ボタンを押すと、手の中にあったカップがフッと消え、小さな正方形の中に『ひび割れたマグカップ』という名前のアイテムが追加される。


「うわぁ、気持ち悪い……」

「そのあたりの感覚は慣れてもらうしかないですね。さあ、どんどん収納しましょう」


 その後も倉庫中の荷物に触ってマジックバッグに納めていく。同じアイテム同士は一つのスロットに納められると聞いていたが、古かったり壊れていた時には別物だと認識されるようだ。

 そうしてモフィーリアの言う「使えそうな素材」を粗方回収した結果、倉庫は随分とすっきりしてしまった。


「物置とは言え、男爵領で御主人の自由にできるスペースを残してもらえたのは僥倖でしたね。『これ』が置けますから」

「お、お前それって……」


 モフィーリアが床の目立たない場所に白墨で描いたものを見て、僕は声を上げる。王都植物園のガジュマルの根元にも描かれていた、魔法陣だ。


「数日かけて行き来するのは面倒でしょう? これがあればかなり行動範囲は広がります。もちろん、悪用されないように設置する場所は選ばないといけませんが」

「……やっぱりお前って、魔術師なんじゃないの?」


 アイテムなんかに頼らなくても、何でもできそうな気がする。そう思ったのだが、モフィーリアは自嘲気味に首を横に振った。


「いくつかは単独で使えますけど……私だってできる事は限られてますよ。それより魔道具を他の人に使ってもらう方が、よっぽどお役に立てるんです。お姉様の……」


 彼女にとって、エルフィーネ――木霊様は何よりも大切な存在らしかった。だからこそ今こうして木霊様のお告げに従い、僕についてきてくれてるんだろう。


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