26――敵のボス

 令嬢の部屋で腹ごしらえを済ませ、体力を回復させると、いよいよこの屋敷を化け物の巣窟にしている元凶との戦いが待っている。

 僕らは改めて装備や回復アイテムのチェックを行った。


「これは『ポーション』と言って、ステータス異常回復を目的とした魔法薬です。お高いので大事に使ってくださいね」

「……なあ、これも自作できないのかな?」


 何か色も毒々しいし、自分で作れるなら味とかも改良したいところだけど。だがモフィーリアは、真顔で首を振ってみせる。


「御主人、薬の密造は犯罪ですよ?」

「わ、分かったよ」


 魔道具製作との差がいまいち分からないが、作業コンパクトに登録されているレシピはいいらしい。無論、販売するとなると別に許可が要るが。



 敵の数や強さが段違いになったのは、ある部屋の前に来た時だった。どうやら公爵と夫人の寝室のようで、新たに作ったランタンを置いて周りを明るくしても、化け物どもは距離を取りつつもこちらの様子を窺っている。


「ここにあいつらの親玉がいるのか」

「急ぎましょう、一刻も早く!」


 それまで黙々とミッションをこなしていたスラポンが、心なしか焦った様子で急かすので、注意しながらそっとドアを開ける。


 ドンッ!


「うおっ!?」


 いきなり部屋の中から火の玉が飛んできたので、慌ててドアを閉めた。が、激突した火が燃え移り、ドアは炎に包まれる。


「危ない、火事にする気か!?」

「御主人様、このまま一気に突入します!」

「ひええっ」


 文句を言う間もなく、スラポンが燃え盛るドアを蹴破り寝室へと足を踏み入れる。続けて火の玉が何発も襲ってきたが、難なく一刀両断された。強い……レベルが上がったからなのか、元々の技量なのか。


「御主人、見てください」

「何だ、あれ……」


 僕たちを出迎えたのは、男女二体の……僕が最初に想像していた幽霊、そして奥のベッドに腰かけていたのは、水晶玉を手にしたローブ姿の青白い女だった。


「死霊使い……ここを化け物屋敷にした張本人です」

「あいつは人間なのか?」

「魔物のボスは存在しますけど、それとは別に、たまに魔術師ギルドに登録せず、能力を悪用する野良呪術師がいたりするんですよ。まあ要するに……ごろつきですね」


 モフィーリアの声が聞こえたのか、死霊使いはニイィと不気味な笑みを浮かべると、真っ直ぐにこちらを指差した。途端に二体の幽霊たちは両手を構え、火の玉を撃ってきたので、すぐさま盾でガードする。


「くそっ、幽霊なのに魔法なんて反則だろ? それともこれも幻覚なのか?」

「いいえ、どうやら二人とも生前は魔術師だったようですね。ですが魔法は命の力……死んだ人間が扱うには魂そのものを削るしかありません。

能力で魂を縛り付け、使い潰すなんて……惨い事を」


 攻撃の間を縫って、恐る恐る確認してみると、確かに幽霊たちの頬が涙のように光が一筋走っている。泣いているのだ、死してなお操られ、辱められている事を。


「……許さん」

「お、おい。スラポン?」

「旦那様と奥様を解放しろ、この外道!」


 ぶるぶる震えながら剣を構え直すと、スラポンは僕が止める間もなく、死霊使いに突っ込んでいった。


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