25――謎の令嬢の部屋
それから二日間、僕たちはお化け屋敷でスラポンのレベル上げに勤しんだ。
スラポンは鉄剣でガイコツ兵どもを蹴散らし、僕はその後ろで盾で身を守りながら、神霊剣でヒトダマを追い払っている。その間を縫うようにして、モフィーリアはドロップアイテムを拾い集め、マジックバッグに収納していく。
「どうです、この完璧な布陣!」
「布陣というほどでもないような……けど、おかげでクラフトにも慣れてきたな」
盾は鉄と木材で作られる。どこに鉄があったのかと言えば、石でクラフトした精錬用かまどに鉄素材――屋敷中の鎧などを放り込んで鉄塊にするのだ。盾を作るために飾ってある鉄の盾まで素材にしてしまうのには笑うしかなかった。
「盾そのまま使えばいいのに……」
「扱えるんですか、御主人?」
うーん……重いし無理だな。作った盾にはモフィーリアに刻まれた魔法陣が作用し、化け物からの攻撃を上手く防いでくれている。
そうしてスラポンがプレートアーマーを装備したまま戦えるようになった頃、僕らは戦闘の場を二階に移した。ここは奥に行くごとに敵が強くなっていくようだ。
「くそっ、手強いなこいつら!」
「御主人、こっちです!」
弓やら斧やらを持ってにじり寄ってくるガイコツやゾンビを避けつつも、モフィーリアの指し示した部屋に飛び込む。幸いにも……と言うか、不思議な事にその部屋は薄暗いのに幽霊の一匹も涌いていなかった。それどころか、埃すら積もっていない。
「こんなお化け屋敷に、誰かが定期的に掃除に来てるってのか? でも、それならこの部屋だけなのもおかしな話だし……」
「何だか私たちを歓迎してくれているようにも思えますよ」
サイトテーブルにあったランプに火を灯しながら言うモフィーリアに、そんなバカな、と笑いたくなったが、言われてみれば何らかの意思も感じられるような気もする。
まだこの部屋には、化け物除けのお札は貼っていない。にもかかわらず、ドアの向こうの連中が寄ってくる気配すらないのだ。
「……女の子の部屋みたいだな」
シックではあるが、全体的にパステルカラーで統一されていて、所々にレースもあしらわれている。もう部屋の主はいないと言うのに、意識した途端にそわそわしてしまう。どんなお嬢様だったのか分からないけども、生きているとすればたぶん親世代の年齢になっているはず。
「御主人、あの絵……」
「あ、クリュシス殿下!?」
モフィーリアに指差されて、追った視線の先にあったものに息を飲む。そこには、壁にかけられた一枚の肖像画があった。描かれていたのは、第一王子クリュシスと瓜二つの男。
(いや、よく見たら違うな。王子より年上でがっしりしてるし、笑い方も嫌味ったらしくなくて優しい雰囲気だ。何より、この絵が描かれた時期って……)
二十年前に没落した公爵家にある、王子らしき肖像画。それが意味するもの――
「恐らくこの部屋の持ち主は、当時の王太子の婚約者か何かだったんじゃないか。今の王妃……国王陛下のお妃様とは別人だけど。一体公爵家に何があったんだろうな?」
首を傾げながらも一時の休憩を取る事にした僕は、スラポンが一言、
「お嬢様……」
と呟いたのを聞き逃した。
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