30――両親の思い出

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『お父さんとお母さん? どっちも死んじゃったよ。と言うより、天涯孤独の身になったからこうして旅をしてるの』


 この日見た夢では、コージがフィンの両親について訊ねていた。あっけらかんと答える彼女は、本気で気にしていないのか、そう振る舞っているだけなのか。


『そうか……まあ、フィンも実年齢じゃおばさんだから、ご両親も高齢だったんだろうな』

『ン? どこどこ。おばさんなんて、どこにも見当たらないよ?』

『……』


 コージの年齢弄りも即座に返す様から、しんみりした空気は感じられない。心配するだけ無駄だったか……と溜息を吐く。


『それにしたって、幼女が一人旅なんて危ねえだろ。誰か信頼できる大人は他にいなかったのか?』

『幼女もどこにもいませんけど?』

『……』


 どうやら、踏み込んで欲しくないようだ。両親の死後、誰も頼らずに一人で生きてきたフィン。そんな彼女が、一体自分の何を信じてついてきてくれたのだろう。


『ま、いいや。ご両親の思い出話なんかも聞きたかったんだけどな。話したくないなら――』

『いいよ、知りたいならいくらでも』

『いいのかよ!』


 それからフィンは、自分を生んでくれた両親の事をぽつりぽつりと話してくれた。


『あたしはね、成長もそうだけど生まれるのもゆっくりだったんだって。かなり長い間お母さんのお腹の中にいて、時間をかけて大きくなっていったみたい。あまりに遅いから、死んでいるんじゃないかって疑われて、でもお母さんは信じて産んでくれたの。当時の事を話してくれる度、あんたは産声から今と変わらないねって笑ってた。

お父さんも、最期まで幼い見た目のままだったあたしを養って、いじめてくる相手からあたしを庇ってくれた。

あの人たちには……感謝しかない』


 淡々と話すフィンの表情は大人びていて、五十年生きていたという話も説得力があるものだった。寂しげなのは彼らが死んだ事だけではないのだろう。恐らく、両親が生きている間に子供はおろか結婚相手すら残せなかった事……


『もしあたしが取り換え子なら、何の力もない、ただのお荷物になってるのが申し訳なくて……どこかにいるあたしの仲間を探しに行こうとした事もある……泣かれたけど』

『当然だろ。俺も親になった事はねえけど、それぐらい分かるぜ』

『うん、あたしも思い返して、悪い事したなって思った。それで村を出るのは、両親が亡くなってからって約束させられたの。

その時は早く出て行きたいって思ってたけど……今は結果的によかったなって思ってる』


 フィンは、余程村にいい思い出はないらしい。それでも、やはりご両親はフィンにとって愛情深い人だったようで安心した。


『そうだな、もしフィンが年老いた両親を放り出して危険な旅に出ていたら、軽蔑するところだった』

『偉そうに言ってるけど、コージも似たようなものでしょ』

『好きでこの世界に来たわけじゃねえよ! 帰れるもんならとっくに帰ってる、俺は』


 つい煽られて声を上げてしまったが、フィンに俯かれ、自分が何を言ったのかを思い出して青褪める。

 コージもここに来てからろくな目に遭っていないが、楽しい事がないわけじゃなかった。それもこれも、みんな――


『まあ、フィンのおかげで少なくとも退屈にはなってないからな。か弱いレディーを放っておくなんて、俺にはできない』


 僕が口を閉じると、周囲がシーンと静まり返った。立てた膝に顔を埋めていたフィンは、耳を澄まさないと聞こえないほどの小声で「ありがとう」と呟く。今度は訂正しないのか。

 鼻を啜り上げる音に、聞こえないふりをしているコージ。ぼくに比べれば、やっぱりフィンはまだまだ小さな女の子だった。


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君を探して幾星霜 白羽鳥 @shiraha

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