19――お化け屋敷

 王都郊外にある、旧ルジュアール公爵邸――それが僕たちの目的地だった。売りに出した管理者は、ここ二十年の怪奇現象に限界を感じ、権利を手放す決心をしたのだとか。


「一応、国有地なんだけど……いいのかな?」

「管理権限を譲渡するから、後は王家と話し合ってくれって事じゃないですか?」

「適当な……それにしても」


 真っ昼間なのに、周囲だけどんよりとしていて薄暗い。これは呪われているという噂もあながち間違いじゃないかも……


 ルジュアール公爵家は現在没落し、家系が途絶えているが、かつては現王の婚約者候補もいたのだとか。娘を亡くし、悲しみの内に後を追っていった公爵夫妻の無念が今も屋敷に漂い、侵入者はおろか管理者ですら下手に手を出せない状況と聞く。

 公爵家の隠し財産があるとか、ここを根城にしている盗賊が噂を流している、など眉唾な話も多々あるようだが。


「ほんの二十年前なのに、詳しい事は何も分かってないんだよな」

おおやけにされちゃまずい真実があるんでしょうね、そういう場合」


 管理者から預かった鍵で入り、屋敷の中を一通り回ってみたが、がらんとして静かなところと埃が積もっている以外は不審な点はない。さすがに調度品は持ち去られたようだが。


「二人で暮らすには広過ぎるけど……とりあえず屋根があるだけでありがたいよ。このまま拠点にしてもいいんじゃないか?」

「今は昼だからそんな事言えるんですよ。夜、目を覚ましたら幽霊と添い寝をしていた、なんて事になっても平気ならいいですけど」

「う……っ、じゃあどうすればいいんだよ?」


 そのための対策です、と言ってモフィーリアは外に出て、屋敷一帯の地面に棒で線を引いていき、所々杭を打って小瓶に入った水をかけていた。


「何やってるんだ?」

「結界です。外に


 何が……?

 次に館の中に戻り、食堂のテーブルの埃を払うと、紙束を取り出して何枚も☆マークを書いていく。これを体に貼り付けておくと、『奴ら』に見つからずに済むそうだ。……『奴ら』が何なのかは、さすがに薄々気付いてきた。


「さあ、いよいよ御主人の出番ですよ。武器をクラフトしましょう」

「な、なあ……俺たち、『何』と戦うんだ?」


 マジックバッグから素材を取り出して並べるモフィーリアに恐る恐る問いかけると、何を当たり前の事を、と顔を顰められた。


「お化けに決まってるでしょう。私たち、そのためにここに来たんですから」

「うわ~、やっぱりぃ~~!!」

「ほら、この素材を選択してレシピを出してください」


 泣き言は許さないとばかりに、作業コンパクトで頬をグリグリされる。こうしている間にも時間は過ぎていき、外は夕日の赤に染まり出している。

 仕方なくコンパクトを開き、木材・魔石、棒を選択すると、レシピに【神霊剣】と表示された。神木×2・魔石×1・棒×1でクラフトできる……と。


「神木? まさか聖樹じゃないだろうな」

「そんな罰当たりな事、するわけないじゃないですか。取り壊す予定の宗教施設の木造建築から貰ってくるんですよ。長年、人々の祈りを受けた素材は神聖な力を宿しますから」

「ただの木の剣じゃダメなのか?」

「霊的な存在には効きませんね」


 うわー、本格的。

 手の中に現れた、魔石が嵌め込まれた白木の剣を握りしめ、僕は大きくなる不安に襲われていた。


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