20――スライムの作り方
もうすぐ日も落ちるという時になって、モフィーリアがマジックバッグから取り出したのは、松明の束だった。
「思いっきり明るくしてれば、お化けも寄ってきません」
「それ、もっと早く出せなかった? 屋敷中に置いて回ればよかったのに」
「火事になる危険性がありますから、目の届かない場所には放置できませんよ。それに、素材も集めておきたいですしね」
素材?
首を傾げる僕に構わず、モフィーリアは火打石でカンカン叩いて松明に火を点ける。手元が明るくなると、周囲の暗さが際立ってくる。
「……うっ!?」
その時、生温かい風が首元を撫で、思わず震え上がった。遠くからコウモリがキシキシ鳴く声や、カシャンカシャンと音が聞こえる……ような気がする。
「な……何の音だ!?」
「来ますよ、離れないでください」
そう言ってモフィーリアは勢いよくドアを開ける。
そこには、信じられない光景があった。フニャフニャした白い影のようなものがたくさん浮かんでいる。精霊のようにも思えるが、モフィーリアによれば似て非なるものらしい。
「ヒトダマ……死んだ人の霊魂です」
「あ、あれが!?」
なんか、想像してたのと違ってた。てっきり生前と同じ姿をしているものかと。
「そういうのもいますが、もっと強い念を持った霊の場合ですね。この霊たちは未練らしきものはありますが、人の形も保てない、ただ空中を飛んでいるだけの者みたいです」
「じゃあ、害はないんだ?」
「いえ、気を抜くとたまに乗っ取られます」
言っているそばから、ヒトダマが体をすぅっと通り抜ける。その途端、急激に体温が下がり、ガタガタ震え出した。気持ち悪くて不快な体験に、自分自身を抱きしめて耐える。
「気を確かに! あと、一度でもぶつかったら敵に見つかります」
「早く言え!! どうすんだよ!?」
「神霊剣を使ってください。あいつらを祓えますから!」
手に持っていた剣を言われた通り構えると、無我夢中で振り回す。ちょっとでも寄って来ようものなら、虫を追っ払うように抵抗する。
そうしている内に、粗方のヒトダマは見なくなったが、気付くと剣の方が大変な事になっていた。白くてねちょっとした、鼻水みたいなのが纏わりついていたのだ。
「ひぃ、何だこれ!?」
「あ、それはヒトダマの残骸ですね。九つ集めるとスライムボールになります」
「何それ、どういう仕組み!?」
触るのも嫌だったので、作業コンパクトでさっさと回収しておく。スライムボール四つって事は、漂っていたヒトダマは三十六人分もいたって事か? どんだけ幽霊引き寄せてるんだよ……
置いてあった古いランプに、松明を固定させて灯りにすると、モフィーリアは再び火打石をカチカチする。
「エントランスはこんなとこでしょうか。さ、次は各部屋の攻略といきますか」
「うう、帰りたい……」
一人だけ元気なモフィーリアの後を、僕はトボトボとついていった。
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