21――身代わり人形
「ぎゃあああ、来るな来るなー!!」
ドアを開けるといきなり襲ってきたガイコツ兵に、僕は剣を構える余裕もなく松明を振り回す。
「お札があれば大丈夫じゃないのかよ!?」
「距離が近過ぎます。さすがに目の前でドアが勝手に開いたら気付きますよ」
「くっそー、ヒトダマと違ってこいつら祓うだけじゃ倒せないのか……お?」
その時、だんだん近付いてくる灰色の物体が見えた。霧のようなゼリーのような、不定形な生き物。どちらかと言えば、こっちの方がスライムだと言われれば納得する。
「あっ、火は近付けないでください! そいつは火薬の精ポルヴォラです」
「火薬? ……って事は」
ドカーン!!
部屋の中で爆発が起き、床下が抉れた。味方だったはずのガイコツ兵も巻き込まれてバラバラになってしまっている。
咄嗟に飛び退いてダメージを軽減したものの、あまりの危険性に僕は腰が抜けてしまった。モフィーリアはと言えば、さっさと散らばっている骨を拾い集めてマジックバッグに放り込んでいる。逞し過ぎる……
「御主人、しっかり立ってください!」
「ああ、あわわわわ」
「ダメだこりゃ」
モフィーリアは惨憺たる有り様になった部屋の四隅のランプに松明を取り付けると、次の部屋へと行ってしまった。追いかけないと……とは思うが、まだ足がガクガクしている。ようやく彼女が入った部屋に辿り着くと、ドアには☆マークの貼り紙、もといお札が貼られていた。
「御主人、やっと来ましたか。この部屋にはお化けは涌いていませんでしたので、拠点にしました」
涌いて……って、蛆やボウフラじゃあるまいし、幽霊って涌くものなのか?
「さて、素材も結構集まりましたし、これで結構役に立つアイテムが作れるんじゃないですか?」
「素材のためにあんな命がけで戦ってたら身が持たないぞ……大体、お前は戦ってたのかよ」
彼女がどう動いていたのかは必死だったので確認していないが、こっちは汗だくで戦っていたのにダメージも全然食らっていないように見える。
「私は要領悪く敵にぶつかったりしませんから。御主人の取り落としたドロップアイテムを拾い集めるのに忙しかったんですよ」
「あーそうかよ、悪うございましたね!」
普通、従者が主人を守るものじゃないのか? とは言え、報酬を払っているわけでもないし、ただのメイドを盾にするつもりもない。ただ文句を言いたかっただけだ。
「ご安心を。今度からは御主人自ら前に出る必要がないように、身代わり人形を作りますから」
「身代わり人形?」
「御主人、実家の倉庫からチェス盤を持ってきたでしょう?」
ガリガリガリッ!
ドアを引っ掻く音にビクッとする。向こうに敵が集まってきて中に入ろうとしているのだ。怖くて仕方がないが、モフィーリアは気にした様子もないので、仕方なくマジックバッグにしているギターケースを取り出す。
実家にあった古いチェス盤は、開くと中に駒が入っていた。所々欠けているし、ちゃんと揃ってないかもしれないが、それでも構わないと言われた。
「このチェス駒を一つ使います。そうですね、まずはポーンにしましょうか。御主人、レシピを開いてください」
作業コンパクトでポーンの駒を映し、レシピを検索する最中に、モフィーリアは自分も素材を次々と並べていく。
「あった! チェス駒1、魔石1、ガイコツ兵の頭1、骨4、スライムボール2だ。揃ってるな」
レシピ通りに素材を配置していき、最後に『クラフト』を選択すると、突如目の前が眩く光った。こんな事、今まであったか?
恐る恐る目を開けると、そこには虚空を見つめる一人の男が立っていた。体はつるつるしていて表情がなく、何となく生きた人間とは違うと感じさせる。
そいつは僕を目が合うと、恭しく膝をついた。
「はじめまして、御主人様。何なりとお命じください」
「これで身代わり人形の完成です。さ、御主人。試しに何か命令してみてください」
人形と言うより、人工生命体と言った方がいい生々しさに、どうしたものかと戸惑うものの、とりあえず二人の言う通り――
「そうだな……お前、服着ろ」
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