22――夜明け

 マジックバッグに入れておいた僕の古着を着せると、つんつるてんのぱっつんぱっつんになってしまった。身代わり人形の大きさは成人男性と同じなので仕方ない。むしろ、破けずに着れてしまう方がおかしい。


「鎧もあればいいんですけどね」

「この屋敷には、住人たちの衣類や武器防具の類がそのまま残されているはずです」


 身代わり人形の言葉に、僕たちは顔を見合わせる。


「詳しいな、お前」

「どうやら私に使われたヒトダマは、元々この屋敷で務めていた使用人のものだったようで、微かですが記憶の欠片を拾う事ができました」

「そう、じゃあもうすぐ夜明けだし、少し探検しましょうか」


 え? と思う間もなく、モフィーリアがドアをガチャリと開けた。途端に雪崩れ込んでくるガイコツの群れ……なんてものはなく、屋敷内は静寂を取り戻していた。


「ど、どうなってんだ?」

「簡単ですよ、お化けが活動できるのは夜の間だけ。夜が明ければ、この通り姿を保てなくなるのです」


 戦闘中、彼女が必死になってドロップアイテムを拾い集めていたのも、朝になれば消えてしまうからか。どういう仕組みなのか、ポルヴォラの爆発で抉られた床も、綺麗さっぱり元通りになっていた。


「あれはお化けが見せていた幻だったのか? でもダメージは食らったよな」

「そこはほら、人って案外思い込みで体に異常が出たりするじゃないですか。失くした腕の先が痛んだり、想像で妊娠したり」


 思い込みで殺されてたまるか。

 口を動かしながらも、モフィーリアは身代わり人形に案内された使用人部屋のクローゼットを開け、虫食いのない服を選んで仕分けしていく。


「あら、このメイド服、エマニエル男爵家のより可愛い。さすがは公爵家、二十年前でもデザインは洗練されていますね」

「ダサくて悪かったな。身代わり人形のはともかく、何で僕やお前の分まで?」

「御主人が所持している安物の古着よりはマシだからです。御主人、これから人前に出る時は、ハッタリというものが強力な武器になってきます。

そんな時にボロを身に纏っていては、言葉にも説得力を持たせられませんよ」


 そこまでボロっちくない!

 ……と言いたいところだけど、誕生パーティーでの王女の蔑んだ眼差しを思い返すと、一張羅ですらお下がりだった事を見抜かれていたんだろうな。

 それにこの服、使用人のものですら上質な生地や装飾品が使われている。少し手直しすれば、そこそこいい家の御子息くらいには見られるだろう……一応、貴族なんだけどな僕も。


「ここに飾られてる甲冑とか、使えない?」

「レベルが低いので、無理に着ると動きが遅くなります。分解して胸当てと籠手、あとレイピアだけ持って行きましょう」


 傍らで盛り上がる二人の声を聞くうち、うつらうつらと船を漕ぎ始める。一晩中お化けと戦闘した疲れと、気の緩みからだろう。

 僕は大欠伸をすると、カビ臭い服の山に顔を突っ込んだ。


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