10――スキル『クラフト』

 木霊様によって与えられたスキル『クラフト』……耳慣れないワードに首を傾げていると、モフィーリアはふふんと得意げに胸を反らして解説する。


「職人と言うと、通常は師匠から習って何年も修行して技術を身に付けていくでしょう? 私たち魔道具職人もそうです。

が、このスキルは登録されたレシピと作業台があれば、鍛治屋じゃなくても武器防具が、仕立て屋じゃなくても服がちょちょいのちょいで作れちゃうんです」


 驚愕の能力に、僕は呆気に取られる。それってまるで魔法……しかも錬金術の類じゃないか。この国にも魔術師はいるけど、認められた者は宮廷お抱えになるし、それ以外はもぐりとして取り締まりの対象だ。あわわわ……


「それってズルじゃない? 僕、捕まったりしないかな?」

「チートと言ってください。それに、魔道具職人は国に認められた立派な職業ですし、何より木霊様の加護でいただいたスキルなんですからね」


 えっへんと大威張りしているけど、どうも屁理屈っぽくて不安だ。だけどとにかく魔道具職人として認められれば、僕はもぐりの魔術師とは見做されないって事なんだな?


「分かったよ、じゃあ練習して使いこなせるようになるから、レシピはどこにあるんだ?」

「レシピを見るには、素材を先に集めなきゃいけないから。まずはこれね」

「!?」


 ガラガラガラーッと何もないところから木材が出現して胆を潰す。これ……どこから出てきたんだよ!? 問い質したい僕に構わず、モフィーリアは作業コンパクトを確認するよう促してきた。細かいツッコミは無視して進める気だな……


「上の画面に木材が入り込むよう移動して。そしたら『選択』の項目が出るでしょ? 木材を四つ選んだら……」

「消えた!?」


 慌ててコンパクトを下げ、直に木材を確かめると、僕が選択した分だけ減っていた。いきなり消滅した事に混乱し、どこへ行ったのかとキョロキョロする僕にモフィーリアが呆れて溜息を吐く。


「アイテムスロットに入っただけだから」

「何だよ、それ!?」

「画面の一番下に、九マスの枠が横一列に並んでるでしょ。そこに木材が入ってるはずだから」


 言われて確認すれば、確かに木材らしき小さな絵と「×4」の文字が一マスに追加されていた。


「あったでしょ? 次に『作業台』の項目。九マスに区切られた正方形の中に、木材を選んで入れると……」


 僕はたどたどしい手付きで教えられた通りの動作を進めていく。簡単に「項目」とか「選ぶ」とか言ってくれちゃってるけど、作業コンパクト(元眼鏡ケース)の下半分にあるボタンの操作方法を逐一聞かなければ、何が何やらさっぱりだ。

 その度にレクチャーが止まるので、僕は「御主人様」と呼んでくる猫耳メイドに何度か舌打ちをされるというシュールな事態に陥っていた……絶対こいつ、教えるのに向いてない。


「あっ、木材を作業台の枠に入れたら、画面にレシピが出てきた! へー、色々作れるみたいだ」


 画面の右半分が作業台の枠、左半分が木材を使ったレシピ一覧になった。おかげでさっきまで透けて見えていた向こう側が遮られてしまっている。


「それじゃさっそく、木材四つを選んで作業台を作ってみましょうか」

「えっ? このコンパクトって作業台と同じだって言ってたよな。作業台で作業台を作るのか?」

「屁理屈言わない。使いこなすための練習ですよ」

「あと、アイテムスロットってどういう構造になってるんだ? スロットに収納されたアイテムは実際にはどこに……」


 使えば使うほど湧いてくる疑問をつい口にした僕は、モフィーリアが歯軋りをしているのを見て言葉を切る。


「うるさーい、細かい事は『魔法』でいいんです! 今はとにかく練習練習!」

「は、はいぃ……」


 やっぱり魔法なんじゃないか……とぼやきつつ、僕は初めての『クラフト』を体験したのだった。魔術師と魔道具職人、この二つにどんな違いがあるというんだろう?

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