9――木霊様の加護
「木霊様に? お前、精霊の御使いって言ってなかったか?」
モフィーリアと木霊様の関係性がいまいち見えてこない。彼女は決まり悪そうに頬をポリポリ掻いた。
「その辺は説明するとややこしいんですよ……とりあえず知り合いって分かってもらえれば充分だったんで。
首輪の呪いを解くには、主従契約を結んで外してもらう事。私は奴隷商人との契約前に逃げ出しましたし、元の姿もこの通り亜人ですから、信じられる人間を見つけられなかったんです。
木霊様が言うには、祠の前で倒れているあなたと契約を結んで、力になってあげなさいとの事でした。判断の前にしばらく観察させてもらいましたけど」
それで目が覚めた時に、こいつがいたのか。いつ契約したのか心当たりがないが、モフィーリアが言うには首輪を着けた状態で自分の所有物だと宣言すれば、契約の第一段階とされるんだとか。そう言われれば、遺産分配の時に「僕には猫一匹…」とカウントしていたのを思い出したが、あんなんでよかったのか。
「そんなわけで、呪いを解いてくれた御主人には、私が住居の世話と独り立ちのためのサポートをさせていただきますので。改めてよろしくお願いしますね」
ニコッと笑う猫耳メイドは、ようやく落ち着いた僕の心には癒しに感じられ……彼女が恋人でもいいなとちょっと思ったりもしたが。
「あ、私は木霊様一筋なので。そういうのは他当たってくださいね」
すげなく断られてしまった。
★ ☆ ★ ☆ ★
「さて、あなたには木霊様から与えられたスキルについてご説明しておきます」
「スキル?」
いつの間にそんなもの付与されていたんだ。あの夢のお告げの時だろうか……言っちゃ何だが、僕には金になりそうな特技なんて何もない。今から思えば、よくそれで王女様にお近付きになろうとしたな。
モフィーリアがポイと投げて寄越したのをキャッチすると、それは実家の倉庫から持ってきた、父さんの眼鏡ケースだった。
「木霊様の加護付きアイテムへと改造させていただきました」
「お前、遺品を勝手に弄って何やってんの!?」
「そうは言っても、あのままじゃ何の役にも立たない、ただの倉庫の肥やしでしょう? さ、開けて眼鏡を着けてみてください」
うぐぐ、人の形見に好き勝手言いやがって……仕方なくケースを開けるが、そこにあるのは何の変哲もない眼鏡だ。疑りながらもかけてみる、と――
「何だ、これ!?」
レンズを通して見えたものが信じられず、何度も着けたり外したりする。眼鏡をかけてケースの裏側を見ると、上半分は向こうの景色が透けて見え、下半分はよく分からない記号が羅列してあった。
モフィーリアは得意げにフフンと笑うと、驚愕で言葉も出ない僕の持っている眼鏡ケースをコツンと指で突く。
「どうです? それが木霊様に付与されたスキル『クラフト』――私と同じ魔道具職人になれる能力です。そっちもただの眼鏡ケースではなくなりましたから……そうですね、作業台ならぬ作業コンパクトとでも名付けましょうか」
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