7――秘密の隠れ家

 夕方に差し掛かる頃、人気のなくなった頃合いを見計らってきょろきょろと周りを確認していたモフィーリアは、不意に柵を乗り越えガジュマルに近付く。


「おい何やってんだ、勝手に」

「御主人、ここです。この木の洞のとこを見てください」


 焦る僕に構わず手招きするものだから、僕も仕方なく柵を跨ぐ。見つかったら絶対怒られて叩き出されるだろうが、モフィーリアもそれが分かってるからチャンスを窺っていたのだろう。


「ん、何だこれ?」


 モフィーリアの指し示す洞の部分には、妙な模様が描かれていた。外側が円になっていて、古代文字みたいな記号が法則性があるみたいに――そう。


(魔法陣)


 その言葉が浮かんだ瞬間。


「えいっ」

「おわっ!?」


 覗き込んでいた後ろから、モフィーリアに背中をドンと突き飛ばされた僕は、『魔法陣』とやらに頭から突っ込んでいた。


 ★ ★ ★ ★ ★


『ま、ほー、じん?』

『そ、図形が持つパワーを利用して行う魔法の事。大抵は召喚に使われるが、場所と場所を繋ぐなんてのもある』

『コージはそれ、使えるの?』


 エメラルドのようなキラキラした瞳にまっすぐ見つめられ、僕は思わず視線を逸らす。フィンはそうやっていつも期待しているけれど、それに応えられない事がいつも歯痒く苦しかった。


『言っただろ、俺はそういうのはからっきしなの。だからせめて知識だけでも極めようとしてるんだよ。……でもまあ、フィンの魔力量ならできるかもな』

『ほんと? フィンさん、魔法陣で何でも呼び出せる? コージの事も?』

『今ここにいるのに、魔法で呼び出してどうすんだよ』


 呆れた様子のコージの溜息に、鈴の音のような笑い声が重なった。


 ★ ★ ★ ★ ★


「いたたたた……」


 気を失っていたのは一瞬か。目を覚ますと、僕は薄暗い部屋の中でベッドに寝かされていた。はっきりとは見えないが、随分と散らかっているようだ。


「起きましたか、御主人」


 僕に体当たりをしてきた犯人が、ベッドにひょいと飛び乗ってくる。


「そんなに睨まないでくださいよ」

「ここがお前の言う、住処なのか? 植物園に勝手に住み着いてるんじゃないか」


 と言うか、この家具一式は何なんだ。まるで人が住んでるかのように整えられている……散らかってるが。


「私はこの通り猫ですから、できる事が限られてるんですよ。いい感じの新居が見つかればすぐ出て行きますし、そのためには御主人、あなたの協力が必要なんです」

「僕が協力? お前の方が力になってくれるんじゃないのか」

「もちろん、その準備のためにこちらに戻ってきたのです」


 そう言ってモフィーリアは、前足でベッドの向こうを指し示した。


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