3――木霊様のお告げ
暗闇から放り出され、恐る恐る目を開けた時には、周囲はキラキラと光り輝いており、その中で僕は誰かに覗き込まれていた。
(誰だ……?)
起き上がって相手の顔を確かめようとするが、眩しくて目を開けていられない。それでもかろうじて記憶に焼き付いたその姿は、この世のものとは思えなかった。
すらりとした体のラインから、恐らく女性であるらしいのだが、その美しさは様々な理を超越した者のように感じられる。足首よりも長い髪は虹色で、長い睫毛に守られた瞳はエメラルドのよう。そして神官が着るような聖衣からはリボンなのか羽なのか判別つかないひらひらが生えている。
何より僕は、僕を見つめる優しい眼差しに釘付けになった。そこから窺える感情は、慈愛なのか歓喜なのか憐憫なのか全く読み取れない。ただ、見つめ合っているとどうしようもなく胸が締め付けられて苦しい。
「あなた、は……」
誰、と問おうとしても、口がパクパク動くだけで言葉が出てこない。そんな僕に彼女は見惚れるような笑みを浮かべると、歌を口遊むように告げられる。
「素敵なプレゼントのお礼に……目が覚めて最初に触れたものを、大事に持っていきなさい」
何の事だ、という問いは、彼女から発せられる光に包み込まれて消えた。
★ ☆ ★ ☆ ★
チュンチュン、と朝を告げる小鳥の声で目が覚める。そこは昨日道から外れて滑り落ちた先にある、祠の前だった。
マルチョン顔の木霊様像の前には、僕が備えたしなしなの花束が添えられている。
『素敵なプレゼントのお礼に――』
夢に出てきた女性の声が頭に響く。
え、もしかして彼女が木霊様? あの美しい人が、このマルチョンだって言うのか? まさか……
混乱する僕の腹に、何か温かい物体が乗っかった。摘まみ上げてみれば、真っ黒いそれは「にゃーん」と呑気な鳴き声を上げたのだった。
そいつは、風変わりな黒猫だった。
まず首輪をしているので野良ではなさそうだ。毛並みは綺麗に整えられてるし……しかし、両耳にピアスなんかして虐待じゃないのか? 触ろうとするとイヤイヤと拒絶されたが。
「とりあえず、馬車つかまえて帰るか」
そう呟いて立ち上がり、土を払いながら道に戻ろうとすると、猫は足に纏わり付いてきた。
「何だよ、僕はこれから男爵家に帰んなきゃいけないの。お前もご主人様んとこ戻れ」
「にゃーん」
追っ払っても追っ払ってもついてくる猫。どう撒いてやろうかと考えていた僕の脳裏に、夢のお告げが浮かんできた。
『目が覚めて最初に触れたものを、大事に持っていきなさい』
「え……もしかして持って行くって、こいつ??」
摘まみ上げれば不機嫌そうにするものの、抵抗する様子は見せない。相変わらず首輪の存在は気になるものの、後から貼り紙でも貼って様子を見ればいいか、と思い直す。
「来るか? 一緒に」
「うにゃっ!」
了解、とでもいうかのように答えると、猫はそのまま僕の腕の中に収まった。やれやれ……
だけどこのやり取り、遠い昔にどこかでしたような気がする……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます