君を探して幾星霜

白羽鳥

クラフト長者と精霊ラジオ

プロローグ

「――ジ、コージ! しっかりして、目を開けて!」


 自分の名を呼び、誰かが泣いている。

 腹は燃えるように熱く、瞼を押し上げるのも億劫だが声に応えない訳にはいかず、ゆるゆると目を開けると、妖精のように美しい少女が自分を抱え上げてこちらを覗き込んでいた。


 ああ、俺にも涙を流してくれる可愛い女の子がいたんだなあ……最期だと言うのに浮かぶのは、そんな呑気な事だった。

 力の入らない手を何とか叱咤して目元を拭ってやると、ぎゅっと力強く手を握り返された。


「嫌だ、置いていかないでよ。あたしに世界を見せてくれるんでしょ?」

「ごめん、フィン……俺はもう助からない。でも」

「聞きたくない! 一人ぼっちにしないって約束したじゃない、嘘つき!」


 そんな事言われても、こればっかりはどうしようもない。所詮俺は平和な世界から放り込まれた、無力な異世界人だからな。

 だけど、これだけは言える。


「また、会える」

「……!」

「次もを選ぶから……世界が同じであれば、何十年、何百年かかろうとフィンなら見つけられるだろ? だから、探してくれよ。もう一度……げほっ」


 もう言葉を紡ぐ事もできなかった。荒い息を吐きながら、俺の吐いた鮮血とフィンの涙が混じり合うのをぼんやり眺める。

 残酷な事を言っている自覚はあった。悲しみから一時的に逃れるために、膨大な時間を生き続けるフィンを、死人に縛り付ける呪いだ。だけど、同時に祈ってもいた。


 フィンと生きたい。

 彼女が何者かなんて、本当はどうだってよかったんだ。助けるのも復讐に利用するのも、言い訳に過ぎない。ただ、こんな俺を愛してくれた少女のために、今度こそ想いに応えたい。

 またこの世界に生まれ変わって、もう一度フィンと出会って、そして――


「……コージ?」

「……」

「やだ、嘘でしょ? いやあああああ――」


 フィンの悲痛な叫びの中、俺の意識は白い光に飲み込まれた。


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