俺だけ使える古代魔法~実は1万年前に失われた伝説魔法らしいです。え、俺のこと基礎魔法すら使えない無能だって追放しませんでしたか? 今さら助けて欲しいとか、何の冗談ですか?~
35.【SIDE:エドワード】突如としての国王に呼び出され、牢屋にブチ込まれる
35.【SIDE:エドワード】突如としての国王に呼び出され、牢屋にブチ込まれる
その日も俺──エドワードは、執務室に座り"良い報告"を待っていた。
既に準備は進めている。
リレックの村に向かった冒険者たちが全滅したという知らせを受けったら、すぐに救援部隊を送り込む準備は出来ていた。邪魔者をまとめて始末できる。おまけに、手柄だって手に入るだろう。
ゴブリンの繁殖期──まったく、最高の追い風ではないか。
「エドワード様! 報告がございます!」
慌てた様子で部屋に飛び込んできたのは、魔術師組合の副リーダーであった。奴とは長い付き合いで、これまで甘い蜜をすすってきた仲間であった。
「おや? ミシャはどうした?」
「それが今日は行方不明でして……。そんなことより、実は──」
彼が口にしたのは、信じられないことだった。
リレックの村に送り込んだオリオンのパーティが、たった3人でゴブリンの群れを全滅。村人たちも全員が無事。
「ふん。悪運の強いやつらめ」
(つまらんな)
俺は爪を噛んだ。
ランク外の無能魔術師に、そんな芸当が出来るわけがない。大方、近くを凄腕の冒険者のパーティが通りかかって、助けを求めたのだろう。運の良い奴らだ。
所詮、こんなものはクエスト報告に過ぎない。
慌てることはないだろう。
俺は話の続きを促す。
「そして本題なのですが……。エドワード様、国王陛下から出頭命令が出ております。罪状は──」
「……はs?」
思考が空白化した。
間違いなく分かること──それは、この要請は無視できないということだ。
◆◇◆◇◆
王城に付いた俺は、そのまま謁見の間に通された。
(大丈夫だ。なにもヘマはしていない……)
(誤解だ。誤解に決まっている──!)
そんな楽観的な思いがあったが、ひざまずく俺に、国王陛下は実に厳しい目を向ける。
「何か申し開きはあるかね?」
(な、な、な、な──!?)
突如として突きつけられた罪状。
貴族との癒着。金を貰っての魔術師ランクの売買にはじまり──
判明したゴブリンの繁殖期の情報を、故意に隠蔽した。
気に入らない冒険者を死地に送り込み、葬り去ろうとした。
村が全滅するのを待ってから救援を送り、手柄を独り占めしようとした。
明らかに今回のクエストについてが、中心であった。
どれも身に覚えがありすぎるが……
(冒険者は未だに"客室"に"お泊り"頂いているはずだ!)
(バレるようなヘマはしていない。証拠だって、あるはずがない──!)
「誤解にございます! これは私を陥れようと考える何者かの陰謀かと──!」
俺は立ち上がる。
感情に訴えかけるように、身振り手振りを交えて熱く語りかける。証拠が無いのなら与える印象が大切だ。
「このような愚かな報告を上げたのは、誰ですか? 国王陛下に虚偽の報告を上げたのです。ただでおくわけには──」
「あくまで、シラを切るというのだな」
しかし国王陛下の言葉は、どこまでも冷たかった。
なぜだろう。
嫌な予感がする。冷や汗がとまらない。
「ミシャ、出番だ」
「はい」
(どうして、こいつがここに!?)
そうして現れたのは俺の秘書。
先日、行方をくらませたという少女であった。
「ミシャ! 貴様、今までどこに居た──!」
思わずそう怒鳴りつけた俺に、ミシャは慇懃無礼に頭を下げる。おどおどした普段とは別人のような態度に、苛々が募った。
「ミシャ。エドワードの元・専属秘書であった君に確認したい。数々の収賄の証拠と──リレックの村の件について。この調査書に相違はないな?」
「はい。間違いございません」
俺は話を聞いて、青ざめるしかなかった。
"客室"に泊めていた冒険者からは、すでに情報を引き出されていた。証言もバッチリ取られており、情報を持ち帰った冒険者が居たことは疑いようがない。
(おのれ──!)
(今まで面倒を見てやった俺を裏切るつもりか──!!)
そのような調査、俺は聞いていない。
間違いなくミシャが暗躍しており、だからこそ姿をくらませたのだろう。
(絶対に地獄を見せてやる。覚えてやがれ──!)
(落ち着け。まだ誤魔化しようはある……)
「国王陛下! 騙されないでください。恐らくは、そこの女が勝手にやったことでしょう。すべては私を陥れるための策略に過ぎません」
「な、そんなこと、するわけが──!」
「黙れ! たかだか秘書の証言と、魔術師組合のリーダーである俺の発言。どちらが正しいか──陛下、冷静なご判断を」
ゴリ押せるる自信があった。
しかし国王陛下の視線に迷いはない。ただただ冷徹な目で俺を見据えていた。
ミシャは懐から何か小道具を取り出した。
それは、魔道具だ。たしか効果は──
「ミシャ──! やめ、やめろ──!」
止める間もなく音声が再生される。
『この件は、責任を持って俺が一任する。混乱を避けるためんだ。情報を知る者は少ない方が良いからな』
『ミシャ、指名依頼を出せ。依頼内容は、リレック村のゴブリン討伐クエストの増援。ただし繫殖期の情報は伏せておけ』
『ああ、扱いは緊急クエスト。指名対象は、オリオンたちのパーティだ。断れば冒険者ライセンスを剝奪するとしても良い――決して逃がすな』
再生されるのは、あの日のやり取り。
冒険者も交えた会話がバッチリと録音されていた。
(ここまで手痛い裏切りをされるとはな──!)
思わずミシャを怒鳴りつけるが、彼女の瞳に怯えはない。目をそらすことすらせず、まっすぐにこちらを見返してきた。挑むように。決別の意を示すように。
「ミシャ! 貴様あああ!」
頭に血が登った俺は、思わず魔法を詠唱していた。
炎+炎+炎のトリプルスペルで、巨大な火の玉を生み出しミシャに打ち出そうとする。直撃すれば無事では済まないだろうが、
「貴様! ここをどこだと心得る!」
すっ飛んできた衛兵に、あっという間に取り押さえられた。
魔封じの魔法陣を腕に嵌められ、床に押さえつけられる。まるで罪人。
「陛下! 誤解です、どうかご再考を──!」
「衛兵、その者を地下牢に。そうだな──。シュヴァルツ鉱山が、活きのよい魔術師を探していたな。度重なる収賄に、組織の腐敗。鉱山奴隷7年程度が妥当なところか?」
(鉱山奴隷!?)
(嫌だあ! 魔術組合の長まで上り詰めた俺が、どうして──!?)
「陛下! どうか御慈悲を、陛下!!」
「連れて行け!」
「「ハッ!」」
まさに取り付く島もないとはこのこと。
ミシャには最後まで顔色1つ変えずに見送られ──俺は、ずるずると地下牢に引きずられていった。
鉱山奴隷。
重犯罪者が課される過酷な労働環境で、扱いは最悪の一言。そんな場所に7年ともなれば、まさに地獄が約束されたようなもの。
「嫌だあああああ!」
恥も外聞もなく地下牢で泣き叫ぶ。
しかし助けの手は、どこからも差し伸べられなかった。
◆◇◆◇◆
その日、エドワードは魔術師組合から除名された。
また組織の腐敗に関わった者も、一掃されたと言う。
そうして舞い込んできたのは新しい風。
重視されだしたのは、無視されてきた好奇心ある有望な若者の言葉。
中でも興味深く見られたのは【古代魔法】についての報告であり──
「これが本当であれば、常識がひっくり返るぞ──!?」
「エドワードのやつは、これを握りつぶしたのか! 歴史的な損失だぞ、何を考えてたんだ!?」
「私腹を肥やすことしか考えてないタヌキめ!」
古代魔法、1万年前に失われたはずの伝説の存在。
新しいものに抵抗のない者ほど、深い興味を示した。
アリスと同じで、未知のものに惹きつけられてやまない者たちだ。
好奇心のままに、彼らは会議で発言する。
くだらない権力争いより、魔術への愛がまさる空間。
その会議の方向性を、下らない私情から妨害しようとする者もおらず──
「ひとまずランク【ロスト・エレメンタル】を新設することに──」
「「「異議なし!!!」」」
その間、わずか数日。
これまでが嘘のように、オリオンへの評価も改善されていくのだった。
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