俺だけ使える古代魔法~実は1万年前に失われた伝説魔法らしいです。え、俺のこと基礎魔法すら使えない無能だって追放しませんでしたか? 今さら助けて欲しいとか、何の冗談ですか?~
31.【SIDE:勇者】オリバーとルーナ、死を覚悟したところをオリオンに救われる
31.【SIDE:勇者】オリバーとルーナ、死を覚悟したところをオリオンに救われる
「オリバー、どうにかするべきは雑魚やない。ゴブリンキングや」
向かってくるゴブリンたちを見据え、ルーナが俺にささやきかけた。
「でも、俺の攻撃じゃあいつには……」
「ゴブリンキングの弱点は――力を与えているのは魔石や。額に埋め込まれた魔石を狙うんや」
ルーナの言葉は、俺にかすかな希望を抱かせる。
「それでどうにかなるのか?」
「どうにかしてもらわんかったら全滅やな」
あっけらかんと言い放つルーナ。
それはまだ、生きることを諦めていない証でもあった。
「ゴブリンキングを倒せば、群れは弱体化する。か細い糸を掴むような話やけどな――こんなところで死にたくはないやろ?」
「当たり前だ」
どうしてこんなになるまで、ルーナの声に耳を傾けなかったんだろう?
こうなるまでに、出来ることはあっただろうに。否、ここからでも足掻くことはまだ出来る。まだ終わってはいないのだから。
「期待はしとらんけど……。頼んだで、勇者さん?」
ルーナはそう言って微笑んだ。
「ああ、やってやるさ。ルーナ、おまえこそ死んだら許さないからな――!」
そう返し、俺はゴブリンキングに向かって駆けだした。
◆◇◆◇◆
目の前にはゴブリンキング。
俺の必殺の一撃は通じず、奴の攻撃は1発すら防ぐことすら出来なかった。
勇者たる俺がゴブリンキングに負けるはずがない──などとはもう言わない。やつは間違いなく格上の相手だ。現実を見据える。その上であいつは倒さなければならない的なのだ。
なにせ背中には、大切な幼馴染が居るのだから。
『聖剣よ――』
撃ち合ったら間違いなく勝てない。
それでもスピードなら、こちらに分があるし――なにより、奴は
「今だけで良い。俺を本物の勇者に成らせてくれ――!」
俺は魔法を詠唱する。
あまりに拙い呪文の詠唱であり、本来なら実践で使い物にならないような光・光・光のトリプルスペル。そのため時間は、ルーナが作ってくれた。
「できた――」
すべての魔力をつぎ込んで生み出したのは、それは先ほどの聖剣とは比べものにならない黄金に輝く聖剣――エクスカリバー。どうしてもルーナを助けたいという一心で生み出した、ある種の奇跡の一振りであった。
術式が完成しても、ゴブリンキングはやはり見向きもしない。
もちろんルーナのスキルの効果であったが、それでもゴブリンから取るに足らない存在だと突き付けられているようでもあり――
「なめんなよ!」
俺はゴブリンキングに飛び掛かる。
額にある魔石――ルーナの言葉を信じて、そこに聖剣を突き刺した。
グギャアアアア!
ゴブリンキングは、はじめて苦悶の声を上げた。
こちらに敵意のこもった目を向けるが――
「ヘイト・コントロール! あんたの相手は、私やで!」
それをルーナが許さない。
ゴブリンキングと目が合う。巣を襲ってきた者を決して許さないという、憎しみと怨念の籠った眼差しだった。
それは高位モンスターによる威圧。気の弱いものなら、それだけで相手を狂乱に陥れる魔眼である。ルーナに動きを封じられたゴブリンキングによる決死の抵抗であったが、
「行けええ!」
今だけは、ここで引くわけにはいかない。
無我夢中で聖剣を額の奥深くにまで押し込む。たしかな手ごたえと、なにかを砕く感覚──その一撃は、ついにゴブリンキングの魔石を砕くのだった。
激しい断末魔と共に、どうっと倒れ伏すゴブリンキング。
魔力はすっからかんだ。それでも達成感があった。
「やった。やったぞ――!」
俺は思わずルーナに駆け寄ろうとし、
「ルーナ――!?」
同時に、ルーナが倒れ込むのを見てしまった。
モンスターの群れの、すべての攻撃を引き受けたルーナ。ついに限界を超えて、あっさりと力尽きたように。
「おい、ふざけるなよ。ルーナ!」
「最初から分かっとったで──この数相手には、無理があるってことはな。私はどうやら、ここまでやな。オリバー、最期にあんたが勇者らしいところが見れて、満足やで」
(ふざけるなよ!)
(何を満足そうな顔をして──最期って、なんだよ!)
俺は、ルーナを抱きかかえた。
最後までパーティに残ってくれた大切なパーティメンバーの幼馴染。ようやく気がついた大切なものを、決して手放さないように。
「オリバー、逃げれるなら逃げや? ここに居ると、巻き添えになるで――?」
最後の最後まで、ルーナは理想のナイトだった。
自らの命を使ってでも、仲間を、村人を、迷わず安全圏に逃がすための行動をやり遂げたのだから。
「ふざけんなよ!」
納得出来るはずがなかった。
「ゴブリンの群れがなんだよ。そんな雑魚、全部倒しちゃえば良いだろう?」
空虚な言葉。
それでも、それが可能だと思い込む。どれだけの数が居ても、すべて倒してしまえばよい。そう言い聞かせ、群れを睨みつけようとした。
――その心を折るように。
こちらにのっそりと、歩いてくる影があった。
その巨大な影はゴブリンキング。
その数、実に4体。そのどれもが、絶望的な群れを引き連れている。ルーナのヘイトコレクターに釣られたのだろうか。
「なんだよ、それ……」
1体倒すだけで、精一杯だったのだ。
俺は魔力を使い切り、ルーナは満身創痍で伏しており戦闘は不可能。
──勝てるはずが無かった。
絶望に形を与えたような光景。ただやらかした勇者としての汚名を残す。逃げても地獄。大切な人を守ることもできず、何も成せずに死んでいくのだと。
「ゴブリンキングが何だよ! 雑魚モンスターがいくら群れたところで、雑魚だってこと……。俺が証明してやるよ──!」
自分を奮い立たせるように。
俺は手にした武器で、ゴブリンキングに果敢に斬りかかり──残酷な現実を突きつけられた。
まるで向かってきた|蝿<はえ>でも振り払うように。
ゴブリンキングの無造作な一振り。それだけで俺は軽々と吹き飛ばされてしまう。飛ばされた場所は、奇しくもルーナのすぐ隣であった。
「ちくしょう……」
自らの無力さが悔しかった。こんなことなら、もっと勇者として実力を磨いておけば良かった。そう思うったのは、生まれて初めてのこと。もうすべてが、手遅れだった。
「なあ神様? もし居るのなら──どうにかルーナだけは、助けてやってくれないか? ここまで付いてきたこいつは何も悪くないんだ。全部俺のせいなんだ。だから──」
情けなくも、最後に俺がしたことは神頼み。
ただ奇跡を信じるように。こんなことしか出来ないことも恥ずかしい。それでも、もう奇跡でも信じることしか出来なかった。
そのとき、凛とした声が響いた。
「風のマナよ――あの人たちを守れ!」
その声には、聞き覚えがあった。
基礎魔法すら使えない能無し。ギルドからそう評価されていた勇者パーティ所属の魔術師──オリオン。
かつて俺が追放を言い渡してしまった人間だった。
◆◇◆◇◆
それは奇跡のような光景だった。
俺たちを包み込むように現れたのは、風のマナから生み出される巨大な竜巻。中に居る俺たちを切り刻むでもなく、むしろ侵入者から守るように展開されている。
さらに、目を疑うような魔術は続く。
「氷のマナよ――アイスドラゴン! あいつらを叩きのめせ!」
生み出されたのは氷の竜。
わけのわからない光景だった。オリオンが魔術で生み出した氷の竜は、手あたり次第近くのゴブリンを蹂躙していく。
突如として現れた群れへの脅威。
ゴブリンキングは、一斉に氷のドラゴンに襲い掛かるが――
「な、なんだありゃ?」
「まったくや。私たちが、あれだけ苦戦してたのは何だったんや――嫌になるなあ……」
ゴブリンキングがどれだけ殴ろうとも、氷の竜はビクリともしない。その体を傷つけることすら敵わない。逆に氷のドラゴンは咆哮とともに、氷のブレスを吐き出す――それだけでゴブリンキングは跡形もなく消滅した。
戦いですらない。それは、文字通りの蹂躙劇であった。
認めたくはないが、間違いない。
「なあ、ルーナ? これが、オリオンの真の力なのか」
「そうやな。あんたが気づかずに追放した――天才魔術師の力。そのほんの片鱗なんやろうな」
「そうか……」
自分が、どれほど愚かな行為をしたか、ようやく気がつく。
エミリーが怒って出ていくのも当然だった。オリオンが居たからこそ、俺たち勇者パーティが成り立っていた。その言葉は、おそらく大げさでも何でもなかったのだ。
否が応にも、理解させられた。
「助かったのか……?」
「そうみたいやな」
俺とルーナは顔を見合わせた。
それから、どちらともなく笑い出す。
勇者としては失格も良いところだ。
情けないところしか見せられなかったけれど、こうして共に生き残れたのだ。今はそれだけで儲けものだ。
◆◇◆◇◆
それからどれほど経ったのだろう。
気がつけば、あれほど居たゴブリンは全滅していた。
「オリオンさん、オリオンさん! どうやら村人たちは、無事に逃げたみたいですね。冒険者たちでオトリになったみたいですね。凄いです!」
「この規模のゴブリンに襲われたら、村はひとたまりもない。正しい判断かもしれないけど、随分と無茶をするな……」
こちらに向かってくる少女とオリオンの声。
やはりと言うべきか、隣にはエミリーの姿もあった。
「でも繁殖期とはいえ、なんで襲われるような事態になったんだろうな?」
「う~ん? でも無事みたいで良かったですね。オリオンさんが守ったのは、村の英雄ですね! 私、治療してきます──!」
パタパタと駆け寄ってくるのはアリスという少女。
俺が勧誘に失敗した天才魔術師であった。どうやら、ちゃっかりとオリオンと合流していたらしい。
「げっ。この人は……」
目があった。
アリスが、めちゃくちゃ嫌そうな顔をした。
「このクズ勇者!」
「なんだと──!」
「ナイトをこんなになるまで酷使して! 人として恥ずかしくないの!?」
怒りのこもった目を向けてきた。
返す言葉もない。
「ルーナさん……。ですかよね? 今、治します。動かないで下さい」
「ちょっと無茶しすぎたな。助かるで」
それからアリスは、ルーナに治癒魔法をかけた。
水・風のダブルスペル。攻撃魔法だけでなく、回復魔法までお手の物。
アリスは、噂に違わぬ天才魔術師であった。
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