20.古代魔術師、アリスたちとパーティを結成する

 俺とエミリーは、お店の前でアリスが現れるのを待っていた。

 しばらく経って、アリスがやって来る。鼻歌を口ずさんでおり、随分と上機嫌であった。


「なにか良い事があったのか?」

「えへへ、秘密です」


 そう言いながら、アリスはお店の中に入っていった。



「それでは、改めてお疲れ様でした!」


「「乾杯~!」」


 ちなみにお酒は飲めないので、持っているのはただのジュースだ。俺たちはグラスを合わせ、互いに功績を称え合った。



「アリスちゃん、そんなに食べるの!?」

「えへへ。オリオンさんが、食べられるときに食べるのは冒険者に必要な素養だって褒めてくれたんです!」


「え? ――おじさん。私もカリーライスもう一杯追加で!」


 にこにこ微笑むアリス。

 それを見て、エミリーが何故かおかわりを宣言。アリスと張り合うようにカリーライスを頬張った。


「どう、オリオン君? 良い食べっぷりよね?」

「お、おう……?」


(何故、こっちに話を振る……?)


「美味しいね」

「はい! お気に入りの店なんです!」


 アリスは嬉しそうに笑う。

 会ったのがついさっきだとは思えないほどに、2人は距離が近い。年齢も比較的近いし、エミリーはアリスのことを妹のように可愛がっていた。



 ひととおり皿が空になったころ。

 デザートをウキウキと頼みながら、アリスが突然、こんなことを言い出した。


「ところで、オリオンさん! 次はどのドラゴンを狩りにいくんですか!?」

「ぶっ……。アリス、本気で言ってる?」


「はい! オリオンさんに弟子入りを認められるその日まで――! 私、諦めませんからね!」


 輝くような笑みで、アリスは言う。


(え、まじで? あんな死地に何度も行かないといけないの……?)


 とはいえアリスが一緒なら、滅多なことにはならないか。アリスも今回の件で、学んだはずだ。止めを刺しきれないなんて事態、きっとそうは起こらないだろう。



(パーティなんて面倒ごとは、もう御免だと思ったはずなんだけどな――)


 当たり前のように次を想像したこと。しばらくはソロで居たい――そう思っていたのに。なんだか不思議な感覚だった。



 首を傾げながら、料理をぱくつく2人を見る。


(まあ、良いか)


 おじさんが運んできたデザートを、俺も口に運ぶ。



 そうして、仲間と共に過ごす夜は更けていく。

 結局、店主から「そろそろ良いだろう!」と追い出されるまで、俺たちはのんびりと打ち上げを楽しんだのだった。




◆◇◆◇◆


 翌日の朝。

 冒険者ギルドに向かった俺は、バッタリとアリスに出くわした。特に約束していた訳でもないのに、エミリーも一緒だった。



「待ってました、オリオンさん! さあ、ドラゴンを狩りに行きましょう!」

「……冗談だよな?」


 ちなみにアリスの顔は、どちらかと言えばマジだった。

 放っておいたら単身でドラゴンを倒しに行きそうだ。



(しかも放っておいたら、昨日のような事故が起きかねないしなあ――)

(アリスはどうして、こんなに俺に固執するんだろうな――?)


 アリスはとても良い子だ。

 可愛らしいし気は効くし、まっすぐな少女だ。何故か、俺への弟子入りを希望しているが、俺なんかには勿体ない天才でもある。俺が返事に迷っていると、




「ねえ、オリオン君。私たちで新しくパーティ、組んでみない?」


 エミリーが、そんなことを言い出した。


「その――それは悪いんだけど……」


 以前、アリスに誘われた時も断った話だ。しばらくはソロでやっていこうと思っているからだ。その方が気楽だし、誰にも気を遣わなくて良い。



「私、ずっと後悔してたんだ。勇者パーティでは、ずっとオリオン君に支えて貰ってた。それなのに結局、何も返せなかった」


 エミリーは胸に手を当てて、そんなことを言った。


(そ、そんなことを考えていたのか――?)

(しかし……。いったい何のことだ?)


 正直、心当たりがあまりない。

 勇者パーティでの行動は、役割分担に基づくものだった。魔法役が俺しか居ないなら、それを担うのは当然のことだ。



「私に何が出来るのか、ずっと考えてたんだ。これまで甘えたきりで、ごめんなさい。オリバーのこと、止められなくてごめんなさい」


 俺の困惑を余所に、深々と頭を下げられてしまった。


「あー。エミリーが、何かを気にしていることは分かった。でもこの通りだ。俺は何も気にしてないし――オリバーとのことは、俺も同罪だ。どうか頭を上げて欲しい」


 俺は頭を掻きながら、そう答える。

 改めて謝られても、ただただ気まずいだけだ。


「オリオン君は優しいね」


 エミリーしみじみと呟いた。



「私とオリオン君とアリスちゃん。昨日の打ち上げは、とっても楽しかった。……オリオン君も楽しかったよね?」

「ああ、そうだな」


「私は、もう1回オリオン君と旅がしたい。今度は支えられるだけじゃなくて、一緒に支え合えるように成りたいんだ。だから――もう1回パーティを組んで下さい」


 ソロが気楽だとは思っていた。

 それは半面、いろいろなものを諦める選択だ。



 ふと、昨日の打ち上げを思い出した。

 共にドラゴン討伐という死地を乗り越え、打ち上げと称して朝方まで他愛のない会話を続ける。当たり前のように、メンバーで「次」の話をしていたのだ。


(そうだなあ――)


 それはもう、実質的にパーティを組んだようなものだろう。

 パーティなんて、そう改まって組むようなものでもないのだから。



「ああ。エミリーもアリスも、俺なんかで良ければ――。これからもよろしく」


 そう言って俺は手を差し出した。


「こちらこそ――!」

「はい、オリオンさん!」


 パっと表情を明るくするアリスとエミリー。

 その日、俺たちは新たにパーティメンバーを組むことになった。



 そこでアリスが、ちょこんと首を傾げた。


「それでオリオンさん? 次のドラゴン退治は――」

「その話、まだ続けるの!?」


(弟子入りの話も、続けるんだな!?)



 アリスは、マイペースにそんな話を続けようとする。

 ――アリスの新しい一面を発見した瞬間であった。

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