14.【SIDE:エミリー】オリオンが死に場所を求めていると勘違いし、慌てて追いかける

 オリバーのパーティを脱退した私――エミリーは、赤熱の洞窟を再び訪れていた。



(オリオン君、今頃なにしてるのかな……)


 赤熱の洞窟に来た理由。それは冒険者ギルドで、噂を聞きつけたからだ。

 なんでもアリスという名の天才魔術師が、オリオン君に弟子入りを志願したらしい。そんな彼女に課された課題は、なんと『ドラゴンのソロ討伐』だったそうだ。そのドラゴンは、勇者パーティが討伐に失敗した相手でもあった。



(たしかにオリオン君の噂を聞きつけたなら、弟子入りを願う気持ちも分かるけど……。オリオン君、そんな無茶な課題を設定するかな?)


 その場面を目撃した冒険者も、あまりにも無茶だと言っていた。

 ドラゴンと言えば最強クラスのモンスターだ。オリオンの支援がある万全の勇者パーティですら、苦戦は免れない厄介な相手。いくらクワッド・エレメンタルの天才少女だとしても、ソロ討伐なんて不可能に思えた。



 私は首をひねる。

 そうして考え込んで、ある1つの恐ろしい仮説に行きあたってしまった。


(まさか……。オリオン君、はじめから死ぬ気なんじゃ――!?)


 パーティを追放されたことで、オリオン君はこの世のすべてに絶望してしまったのかもしれない。それでも冒険者らしく、強敵との戦いで最後を迎えたいと願ったのかも?



(ううん、だとしても……。オリオン君が他人を巻き添えにするようなことを、するはずがない!)


 しかし、それは否定できる。オリオン君は、他人を巻き込むような死に様を良しとはしないだろう。ある種の確信があった。

 


(いいや。そもそも前提が違うかも……)

(仮にアリスさんも、死に場所を求めている冒険者の1人だったら……?)


 嫌な予感は加速する。



 一緒に行動しているというアリスという少女。彼女もまた、クワッド・エレメンタルの天才魔術師だ。天才には天才にしか分からない悩みがあるのかもしれない。

 そんな彼らが意気投合して、最後の死に場所を求めての行動だとしたら――



(だ、駄目~! オリオン君、早まらないで――!?)


 なお当のオリオンは、「どうしてドラゴン退治に向かうことになった!?」と頭を抱えているのだが……。エミリーは、そんな簡単な真実は想像もしない。

 ――エミリーは、なかなかに暴走していた。




◆◇◆◇◆


 そうして1日ぶりに訪れた炎熱の洞窟。

 オリオン君のバフ無しで、モンスターを倒しながら進んでいくには、あまりにも難易度の高いダンジョンである。

 だとしても私はシーフだ。真正面からモンスターと殴り合うつもりはない。



『サイレント・ステップ!』


 それはシーフの固有スキル。一定の魔力を消費し続けることで、完全に気配を遮断することができる。私は気配を消しながら、ダンジョンを突き進んでいく。



(やれるやれる!)


 シーフというジョブは、単独での戦闘には向かない。もしモンスターに見つかれば、なすすべもなくなぶり殺しにされるだろう。だとしても、大切な人が死んでしまうかもしれない。このまま何もしなかったら絶対に後悔する!

 私は焦燥感に突き動かされ、ダンジョンを進んでいった。



 ダンジョン探索は順調だった。

 そうして数十分ほど進み、ついにダンジョンを探索する冒険者2人組を発見することに成功した。2人の魔術師――アリスとオリオン君だ。 



 私は思わず声をかけようとして、踏みとどまる。


(モンスターと戦闘中だよね? オリオン君、集中してる……)


 モンスターの群れに囲まれているようだった。邪魔してはいけない。オリオンの見せる集中した横顔。その凛々しい表情に、思わず見惚れてしまう。



 前衛職が居ない状態でモンスターに囲まれた非常に危険な状態であった。並の魔術師なら、生還は難しいかと覚悟するような状態。それでもオリオン君には、まるで慌てた様子がない。



「――ッ!?」


 突如として、オリオンの魔法が発動。

 美しくも残酷な氷の槍が空中に現れ、彼らを囲むモンスターを次々と串刺しにしていく。まったく危うげのない勝利。



(な、な、な、今のなに!?)

(やばいやばい。オリオン君、恰好良すぎる――っ!)


 ……っと、そうじゃない。

 ここに来た目的を思い出す。2人の自殺を止めないと!


 私は駆けだそうとして――

 オリオン君とアリスが、向き合って笑い合うのを見てしまった。




 アリスは、すっかりオリオン君を信頼しきっているようだった。そんな彼女を見返すオリオン君の視線も、どことなく暖かい。まるで2人だけの世界に入ってしまっているようで。



 何故だろう。

 じくりと胸が痛んだ。


 気が付けば、2人を見失っていた。

 彼らは、さらにダンジョンの奥に進んでいるようだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る